33:祝勝会
勇者たちの冒険譚を色々と聞きながら、火山を下り森を進み、草原を突き進んでようやく町に戻って来ることができた。
「それじゃ、コールさんに今回のことを報告して、それからご飯だ。」
「の前に、風呂に入りたいのですが。」
「ああ。それもそうか。じゃあ女性陣は先にお風呂に行ってて。僕たちで報告しとくから。」
ギルドに到着すると、女性三人は浴場へ直行。残った男性陣で受付嬢のところへ。
「ダンジョンの報告です。」
「おかえりなさいませ。リコリスさん。フィカスさんたちのパーティーもご一緒でしたのね。お疲れ様です。」
フィカスが最初にお世話になった受付のお姉さんに、今回ダンジョンで起きたことを報告していく。
主である竜を討伐したこと、その子供と思われるトカゲはまだ沢山いるであろうこと、先に入った冒険者たちは見つかっていないこと……。
そして、両パーティーが協力関係になったことを伝えた。
「分かりました。それでは、今回のクエストはこれで終了です。今後も調査が必要なのかもしれませんので、またクエストが発生した場合には、ぜひお受けください。」
「どうも。都合が合えば、ですがね。」
クエストが完了すると、男性たちも浴場へ。お湯で汗と汚れを流し、すっきりしてからロビーで女性たちの到着を待つ。
「それで、どこの店に行くんだ?」
「よくぞ聞いてくれた、ジギタリスくん。僕が行きつけのヴェイトス・オムニスという喫茶店に行くよ。可愛いウェイトレスちゃんがいるんだ。」
あれ?そのお店って確か……クエストが終わったら、皆で行こうと思っていたところだ。
不思議な偶然もあるものだ。
「お待たせしました~。」
一人でに頷いていると、アベリアたちがやって来た。
「よーし。役者もそろったところで、早速行こうか。」
大通りを歩いたところにある、少しギルドから離れたところにある喫茶レストラン。それがヴェイトス・オムニスだ。
高級志向(と思われる)落ち着いた雰囲気の喫茶店。入店すると、来ているお客さんは皆、落ち着いた服装をしている。一般冒険者が軽い気持ちで来る場所ではなさそうだ。
そんなフィカスの思考を余所に、リコリスは物怖じせずに堂々としている。
「おーい!セプテムちゃん!」
「あ!リコリスさん!いつもありがとうございます!」
メイド服を着た少女が近寄ってきた。
紺色の髪をおさげにした、小柄な少女。日焼けした健康的な肌がまぶしい。
「本日は何名様でしょうか?」
「八人だよ。いい席を頼むよ。」
「かしこまりました!それでは、こちらのお席にどうぞ!」
店の一番奥の席に案内され、四人掛けのテーブルを合わせて皆で座る。
「よく来るんですか?」
「こいつだけだ。俺らはまず来ない。」
「まぁ……そうだよな!」
ガハハ!と笑うジギタリス。
彼の言う通り、この落ち着いた雰囲気の中に冒険者が入るのは想像し難い。
料理を注文し、テーブルに行き渡るのを待ってコップを手にする。
「それじゃあ、スクォーラくん。音頭をよろしく。」
「ん?俺か。そうだな……ダンジョン攻略と、協力関係になったこと、この二つのことを祝して乾杯。」
「かんぱ~い!」
盛り上がらない音頭だったが、掛け声で無理やり織り上げる。
騒いで大丈夫なのかな……?
同時に、フィカスはそう不安に思うのだった。
「なぁ、フィカスたちは次に何をやるんだ?」
口いっぱいに肉を頬張り、それを噛みながらラフマが訊ねてきた。
「下品だ。」とネモフィラが注意した。
「うーん……まだ考えてなかったから……どうしようかな?」
命懸けの冒険も終わり、次にどんなクエストを受けるか、何のビジョンも浮かばない。
「……決まってないならさ。あたしたちも少しの間フリーだし、なんか一緒にやらない?」
「うん。それならぜひ。」
勇者たちとの共同作業。ダンジョンにいる間は余裕がなかったが、落ち着いた状況なら良い経験になりそうだ。
「面白そうだね。僕も混ぜてよ。そうだ、スクォーラくんも一緒にどうだい?勇者様の実力を見せてあげてよ。」
「……いや。俺は少しやりたいことがある。だから、今回は遠慮しよう。」
仕方ないね、とリコリスは肩をすくめた。
「明日になったら、ギルドでクエストを探そうか。それで、スクォーラくんを抜いた七人で、クエストに合ったパーティーを組もうじゃないか。明日の予定はこれで完璧。今日は思いっきり騒ごうか!」
皆、思う存分祝勝会を満喫した。
ただ、騒ぎ過ぎてお店の人にそれとなく注意されてしまった。