31:合流
「どんな音が聞こえたの?」
「うーん……なんか低い音だったような……。」
ラフマは頭に生えた耳に手を寄せ、音を拾おうとするも何も耳に入ってこなかった。
「……なんも聞こえないや。あたしの気のせいだった……あ、また聞こえた。」
「いや、今のは僕たちも聞こえたから。」
誰かが走る足音が四人の耳に届いた。
「こっちの方からだったよね?あ、この道――。」
フィカスが音のした方を向くと、まだ通っていない道がちょうど目に入った。この通路から聞こえたとすると、誰かが近くまで来ている可能性が高い。
暗闇の中、微かな金の輝きが見えた。
「見つけた!」
真っ黒な影が迫って来た。
「サンナ!」
やっと合流できた。けれど、ジギタリスの姿が見えない。
「奥で今、ドラゴンと戦っています!すぐに来てください!」
それだけ言って、サンナは飛んで先行していった。
フィカスたちは黙ってお互いの顔を見て頷きあい、金色の翼を頼りに突き進む。
道幅が広い場所に出ると、そのまま直進していく。すると、より大きな空間へと辿り着き、巨大な竜と戦う者たちの姿が目に映った。
「おう無事だったか!フィカス!アベリア!」
「あらジギくん。大変そうね~。」
「なんだ?こののんびりした女は?」
ネモフィラは呆れ声を出すが、すぐに切り替え指示を飛ばす。
「スクォーラが敵を引きつけている。リコリスは援護!ラフマは攻撃だ!」
「あいよ!」
ラフマが大きく跳び上がり、腕を振りおろした衝撃波で竜の鱗に爪跡を付けた。
「……来たか。」
スクォーラはラフマの攻撃の巻き添えを喰らわないように下がり、入れ替わるようにリコリスが前線に立った。
ナイフで竜の胴体に斬りつける。傷はまるで付かない。けれど、ダメージを与える必要はない。意識がこちらに向けばいい。
「ほらほら、僕を攻撃しなよ……っと。」
そう言ったそばから、リコリスめがけて尻尾が振られた。が、その攻撃がリコリスに当たることはなかった。身体をすり抜け、尻尾は空振りに終わる。
「え、今の、何が!?」
「奴は幽霊だ。攻撃は効かん。それより、ラフマの援護をしてやれ。あいつ一人では荷が重い。」
リコリスは挑発するように攻撃を行い、反撃を霊体になって躱す。その隙にラフマがワーウルフの爪で攻撃する。
「凄いわね~。それじゃあ、私たちも頑張りましょう。」
アベリアとサンナも前線へと上がり、ラフマとともに攻撃を開始する。
「何か大きな得物はないか?」
スクォーラがフィカスに話しかけた。
「いえ、僕は小剣しか……ジギタリスの大剣は?」
「おう!さっき折れたぜ!」
根元からポッキリと折れ、ほぼ柄だけになった大剣を見せた。
「大剣でもあれば、奴の身体を叩き切ることができる。だが、ないのなら……。」
「いや、フィカスの創造魔法なら、俺のと同じ大剣を創れるはずだ!だろ?」
「創造?」
フィカスは頷いた。
「はい。イメージした物を創造できるんです。やってみます。」
ジギタリスの大剣。深く観察したことはないが、日頃から見てきた物だ。細部まで再現とまではいかずとも、似た代物を創造することは可能なはずだ。
「時間かかるのか?」
「はい。大きな物だと……。」
ネモフィラは戦地を見た。
「そうか……となると、集中できるようにする必要があるな。」
「おう!そのまま炎でフィカスの前を照らしといてくれ!おーい!準備が整うまで、攻撃よろしく!」
聞こえるように大声でそう言い、ジギタリスたちはフィカスを見守る。
「……簡単に言ってくれますね。まったく。」
竜の攻撃は激化していた。ラフマとアベリアの攻撃が通っている証拠だ。痛みによって身体の動きが強くなってきている。
「――だぁ!かってぇ!」
ラフマの目から獣のソレが消えた。連続攻撃によって負担の大きくなってきた右腕を押さえ、少しばかり距離をとる。
「ちょっと休憩!アベリア、頼んだ!」
「は~い。任せて~。」