28:ワーウルフ
ラフマは宙へ跳びあがった。
そして、右腕を大きく振りかぶり、空を切るように振りおろした。
突風が洞窟内に巻き起こり、白い筋が五本、地面を抉りトカゲを切り裂いた。
「何が……今……?」
驚くフィカスたちとは対照的に、リコリスは落ち着いた様子で答える。
「あれが、いつも通りの――ラフマという少女だよ。」
ラフマは着地すると、身体を大きくのけぞらして鞭のように左腕を振るった。そこから発生した衝撃波によって壁は崩れ、トカゲの身体を真っ二つに引き裂く。
「ラフマはね、ワーウルフと人間のハーフなのさ。異種族の特徴が別々に出ている例は珍しいとかで、学者にも注目されているんだ。」
人間には出せない跳躍を見せ、命の危機を感じ逃げ惑うトカゲを追い詰め、振るった腕から発生する衝撃波で撃破していく。
「あの身体能力と衝撃波……正確に言えば、手から出ているんだけど。それと頭に生えている耳。それらの特徴はワーウルフのもの。それ以外は全部、人間なんだ。」
あっという間にトカゲたちは全滅してしまった。
「ラフマはいつも、ああいう風に戦うからね。僕でもないと巻き込まれてしまうんだ。」
「ふー全部片付いたよ。つーかリコリス、戦ってないじゃん!あたしに全部押し付けないでよ。」
戦闘時の迫力はどこへやら、ラフマはお転婆娘に戻っている。
「あはは!次は僕も戦うからさ。それよりも、上を目指さないと。スクォーラくんたちが僕たちを捜しているはずだ。君たちも……えーっと名前、何だっけ?」
フィカスとアベリアは自己紹介をし、一時的にパーティーを組むことが決まった。
「了解。それじゃあ、改めて行こうか。」
アベリアとラフマが前を歩き、フィカスとリコリスはその後ろを歩いていく。
先ほど通った道を思い出しながら、まだ通っていない道を探していく。
「なー女二人が先頭っておかしくない?」
ふと、ラフマがそう口にした。
「えっと、じゃあ変わろうか?」
「いやいや、盗賊と魔法使いは後衛。武闘家二人が前衛。至極普通じゃないか。」
フィカスとリコリスは同時にそう返事をした。
「フィカスは優しいねー。それに引き換えリコリスは……。」
溜め息を一つ吐いた。
「パーティーなんだから、そういう男女の話はするだけ無駄さ。アベリアさんも、そう思うでしょ?」
「そうね~二人は仲良しなのね~。」
「いや、僕が聞きたいのはそういうんじゃなくて……。」
ゆっくりと坂を下っていっている気がする。上に戻るどころか、ダンジョンの最深部を目指す行動に図らずもなってしまっている。
「まぁいいや――さてと、段々と下っているよね?この道は止めようか。」
「てかリコリスさ、ちょっと上の方、見てきてよ。」
「方向音痴に何を言うんだ?さぁフィカスくん、アベリアさん、引き返そう。」
「ああ、うん。」
二人の会話の意味が分からなかったが、今この場で気にしても仕方がないと思った。
踵を返して歩きだす。
「あ、そういえばさ……。」
しばらく黙って歩いていると、突然ラフマが喋り出した。
「さっき見た……というか倒したトカゲだけどさ、小っちゃくなかった?」
「そうなの?」
「うん。何となくだけどね。なんか小さいなーって。」
「もしかしたら、子供だったのかもしれないわね~。」
アベリアの言うことって、偶に的を射ていることあるから、もしかしたらと考えてしまう。
「……ん?なんか今、聞こえなかった?」