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マジックセンス  作者: 金屋周
第三章:勇者
28/222

27:背水の陣

曲がりくねった道をフィカスとアベリアは黙々と歩いていた。


水辺から離れたせいか、気温も高まっており自然と汗が出る。



「あ……行き止まり……。」



徐々に細くなってきた道を進んでいると、やがて壁に辿り着いてしまった。これで三度目だ。



「……どうしよう?池まで戻る?」



やみくもに突き進んでも良くない気がしてきた。落ちた地点で待機し、救援を待つ方が賢い選択であるように感じる。



「うーん……そうしましょうか~。」



来た道を引き返し分岐路に到着した時、池の方向から複数体のトカゲが歩いてきた。こちらに気付き、声を上げて威嚇してくる。



「……逃げよう!」



歩き回ってこちらは消耗している。おまけに数が多い。流石のアベリアも、あの数を相手にするのは大変なはずだ。


まだ通ってない道を二人で駆け抜けていく。


走っていくと、再び道が分かれていた。振り返るとトカゲたちが走って追ってきている。迷っている暇はない。



「こっち!」



勘で左を選び、そのままダッシュ。暗闇に近い洞窟をひたすら駆ける。


しかし、この道を選んだのは失敗だったか。先が段々と細くなっていく。このままだと、行き止まりに辿り着きそうだ。



「方向的には、あの池が近くにあったわよね?」



「えっ、うん。そのはずだけど。」



アベリアは拳を固め、立ち止まると岩壁を思いっきり殴った。


ズンッと振動が発生し、バラバラと岩が崩れ落ちていく。



「いった~い!でも……もう一発!」



右手をさすった後、再び拳を固めてパンチをした。辺りが揺れ、今度は小さな穴が壁に空いた。


横を見やると、こちらを発見したトカゲたちが通路から走ってくる。



「もう一回!」



バガンッ!と壁が崩れて新たな通路ができた。それと同時に何か大きなものが水に落ちたような音がした。


空いた先は、さっきまでいた池。戻ってくることはできた。けれど、モンスターが追ってきているので、事態が進展したとは言えない。


池の空間に元々あった出入り口からもトカゲが来ている。完全に追い詰められてしまった。背水の陣だ。


どうやってこの状況を切り抜ける……?


そうだ。あの時みたいに、大きな壁を創ってトカゲたちが来れないようにすれば……。



「アッハハハ!いや~池があって助かったよ~。」



バシャッっと音がし、次いで背後の池から女の子の声がした。



「ありゃ?先客じゃん。」



「本当だ。まさか僕たち以外に来てる冒険者がいるなんてね。」



この場に似つかわしくない格好をした男女だ。



「だね。で、なんかピンチっぽいし、いっちょやってやりますか!」



焦げ茶色の癖っ毛ショートヘアの少女。頭から同じく焦げ茶色の獣耳が生えている。その少女はベストを脱ぎ捨てシャツ一枚になると、手を閉じたり開いたりしながらトカゲたちを見据えた。



「はいはい。じゃあ僕は一体相手にするから、ラフマは残りを全部頼むよ。」



もう一人――黒髪の穏やかそうな少年はそう言って、ナイフを鞘から引き抜いた。ポケットの沢山付いた多目的ベストを着ている。



「いくらあたしでも、そんなに相手できないって。リコリスも手伝ってよ。」



ラフマと呼ばれた少女は、そうリコリスという名前の少年に答えた。



「冗談だよ。僕だって、こういう時くらいは真面目に戦うさ。……というわけで、お二人さん。僕たちが戦うから、できれば巻き込まれないように下がっていてくれるかな?」



「え、でも……はい。」



フィカスは最初、反論しようと思った。見知らぬ二人に頼りきりというのは、良くないと思ったからだ。けれど、『巻き込まれないように』という言葉が引っかかり、素直に言うことを聞くことにした。



「なーんか敵意むき出しって感じだねぇ。」



威嚇を続けるトカゲたちを前にして、ラフマは感心したように頷いた。



「まぁその方がやりやすいけどね。」



そう言った少女の目から、優しい光が消えた。

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