27:背水の陣
曲がりくねった道をフィカスとアベリアは黙々と歩いていた。
水辺から離れたせいか、気温も高まっており自然と汗が出る。
「あ……行き止まり……。」
徐々に細くなってきた道を進んでいると、やがて壁に辿り着いてしまった。これで三度目だ。
「……どうしよう?池まで戻る?」
やみくもに突き進んでも良くない気がしてきた。落ちた地点で待機し、救援を待つ方が賢い選択であるように感じる。
「うーん……そうしましょうか~。」
来た道を引き返し分岐路に到着した時、池の方向から複数体のトカゲが歩いてきた。こちらに気付き、声を上げて威嚇してくる。
「……逃げよう!」
歩き回ってこちらは消耗している。おまけに数が多い。流石のアベリアも、あの数を相手にするのは大変なはずだ。
まだ通ってない道を二人で駆け抜けていく。
走っていくと、再び道が分かれていた。振り返るとトカゲたちが走って追ってきている。迷っている暇はない。
「こっち!」
勘で左を選び、そのままダッシュ。暗闇に近い洞窟をひたすら駆ける。
しかし、この道を選んだのは失敗だったか。先が段々と細くなっていく。このままだと、行き止まりに辿り着きそうだ。
「方向的には、あの池が近くにあったわよね?」
「えっ、うん。そのはずだけど。」
アベリアは拳を固め、立ち止まると岩壁を思いっきり殴った。
ズンッと振動が発生し、バラバラと岩が崩れ落ちていく。
「いった~い!でも……もう一発!」
右手をさすった後、再び拳を固めてパンチをした。辺りが揺れ、今度は小さな穴が壁に空いた。
横を見やると、こちらを発見したトカゲたちが通路から走ってくる。
「もう一回!」
バガンッ!と壁が崩れて新たな通路ができた。それと同時に何か大きなものが水に落ちたような音がした。
空いた先は、さっきまでいた池。戻ってくることはできた。けれど、モンスターが追ってきているので、事態が進展したとは言えない。
池の空間に元々あった出入り口からもトカゲが来ている。完全に追い詰められてしまった。背水の陣だ。
どうやってこの状況を切り抜ける……?
そうだ。あの時みたいに、大きな壁を創ってトカゲたちが来れないようにすれば……。
「アッハハハ!いや~池があって助かったよ~。」
バシャッっと音がし、次いで背後の池から女の子の声がした。
「ありゃ?先客じゃん。」
「本当だ。まさか僕たち以外に来てる冒険者がいるなんてね。」
この場に似つかわしくない格好をした男女だ。
「だね。で、なんかピンチっぽいし、いっちょやってやりますか!」
焦げ茶色の癖っ毛ショートヘアの少女。頭から同じく焦げ茶色の獣耳が生えている。その少女はベストを脱ぎ捨てシャツ一枚になると、手を閉じたり開いたりしながらトカゲたちを見据えた。
「はいはい。じゃあ僕は一体相手にするから、ラフマは残りを全部頼むよ。」
もう一人――黒髪の穏やかそうな少年はそう言って、ナイフを鞘から引き抜いた。ポケットの沢山付いた多目的ベストを着ている。
「いくらあたしでも、そんなに相手できないって。リコリスも手伝ってよ。」
ラフマと呼ばれた少女は、そうリコリスという名前の少年に答えた。
「冗談だよ。僕だって、こういう時くらいは真面目に戦うさ。……というわけで、お二人さん。僕たちが戦うから、できれば巻き込まれないように下がっていてくれるかな?」
「え、でも……はい。」
フィカスは最初、反論しようと思った。見知らぬ二人に頼りきりというのは、良くないと思ったからだ。けれど、『巻き込まれないように』という言葉が引っかかり、素直に言うことを聞くことにした。
「なーんか敵意むき出しって感じだねぇ。」
威嚇を続けるトカゲたちを前にして、ラフマは感心したように頷いた。
「まぁその方がやりやすいけどね。」
そう言った少女の目から、優しい光が消えた。