26:竜擬き
「どうだ?何か見えるか?」
ジギタリスとサンナは、フィカスたちが落ちた穴を覗き込んでいた。
「何も見えないし聞こえない……かなり深いみたいですし、ここからだと何も分かりませんね。私が通るには狭すぎですし、このまま進んで何とか合流しましょう。」
ジギタリスは視線をサンナの顔から下に向けた。
「そうか。お前だと通れないのか……。」
アベリアは通れたのに。
「はい。羽ひろげられないので、飛んで救出は無理です。アベリアがいるので転落死はないでしょうし、危険があるとすればモンスター……急ぎましょう。」
「おう!あいつらなら大丈夫だろうからな!信じて行こうぜ!」
「ええ。」
サンナはチラリと穴を見た後、急ぎ足で進み始めた。
「……それっ!」
フィカスは迫りくる爪を躱し、トカゲの腕に斬りつけた。が、まるで手ごたえがない。
思っていたよりも固い……!
小剣では傷を負わせるのは難しそうだ。
別の方法で攻撃するべきだ。宙に岩を創造して、それの下敷きにすれば倒せるはず。
「……っと!」
爪を躱し、身体を捻って振ってきた尻尾を後ろに跳んで避ける。
イメージする余裕がない。人が相手なら駆け引きがあり、そこに隙ができる可能性があるが、モンスター相手にそういう類の駆け引きは通じない。
どうする?逃げに徹してアベリアの応援を待つべきか?
「いや……。」
ここでそういう選択をしてしまったら、これから先もモンスターと戦うことはできない。冒険者に向いていないと言わざるをえない。
勝つためには、どういう手が必要か。それを考える必要がある。
こういう時こそ、別の武器の出番か。武器図鑑をどうにかして読んで……。
「あ……。」
池に落ちた時に本も濡れてしまった。乾かせば読めるだろうが、今はそんな余裕はない。
「あら~……。」
腕を使ってトカゲの攻撃を捌きながら、アベリアはフィカスの様子を窺っていた。
加勢にいっても良いが、その必要性はないとアベリアは思っていた。
フィカスの観察眼と思考力。この二つの武器を上手く使えば、この状況を切り抜けられると思っているからだ。けれど、今のままではあまりよろしくない。
「フィーくん。無敵な存在なんてないの。落ち着いて見て。」
それだけ言って、アベリアは自分の戦闘に集中し始めた。
「無敵な存在はない……。」
攻撃を避け爪を小剣で受け止め、防戦しながらアベリアの言葉を考える。
トカゲは全身が固い鱗で覆われている。それを無敵とするなら、それでもどこかに違うところがある。
「そこか……!」
弱点が見えた。アベリアが想像している弱点とは違うかもしれないが、大丈夫なはずだ。あとは、どうやってその弱点を突くか。
「それ~!」
アベリアは強化した拳でトカゲの腹部を殴った。鱗が砕ける感触がし、トカゲは勢いよく壁に叩きつけられ絶命した。
そして、フィカスの様子を見る。
フィカスは攻撃を躱しながら、トカゲとの距離を詰めていた。
至近距離で攻撃を小剣で払い続けていれば、爪以外の攻撃もしてくるはず。
右から迫った爪を弾いた時、その好機は訪れた。
正面が空いた。左からの攻撃がくるよりも早く、サンナの動きを再現するように!
間合いを素早く詰めて、小さく鋭い突きをトカゲの口めがけて繰り出した。
トカゲの動きが止まり、次の瞬間腕を大きく振るった。
「おっと。」
アベリアは後ろからフィカスを抱えてトカゲから距離をとった。
トカゲはのたうち回った後、段々と静かになりやがて動かなくなった。
「格好良かったわ~フィーくん。」
アベリアはトカゲの口に刺さった小剣を引き抜き、フィカスに渡した。
「あはは……ありがとう。アベリア。」
「じゃあ、行きましょうか~。」