表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第三章:勇者
26/222

25:池

「う……うわぁぁぁーーーー!!!!!」



落下していく最中、恐怖の感情から叫び声が腹から出たが、叫んだところでどうしようもない。


一寸先は闇。


誰が最初にこの言葉を言ったのか知らないが、まさにこのような状況を指しているのだろう。


なんて思考ができてしまうくらいには、諦めにも似た冷静さがあった。


こんなあっさり、それも突拍子もなく死を迎えるなんて……。


そう思った時、温かさを肌に感じた。


なんだろう……この感触は……。


柔らかく、温かい……優しい……まるで人の温かさのような……。



「……え?」



誰かに抱きしめられた。それを理解した次の瞬間、衝撃と冷たさを感じた。


水だ。


誰かに抱き着かれて着水したのだ。


水面へと浮上し、気管に入ってしまった水を出そうと咳をしていると、水中からフィカスとは別の影が飛び出した。



「ふぅ……助かって良かったわ~。」



「アベリア!?」



大きめな池から上がり、二人で地面に座る。



「えっと……ありがとう。」



「うふふ。どういたしまして~。」



アベリアは肉体強化の魔法で全身を強化し、着水の衝撃を耐えた。フィカスを抱えてダメージが自分にくるようにして。



「さてと、どうやって帰りましょうか~?」



「上には行けないし、別の道を探すしかないよね……はい。」



タオルを創造し、アベリアに手渡した。



「ありがと~。ここって……危ないかもね~。」



薄暗さは相変わらずだが、ある程度この空間がどうなっているかは分かる。


おそらく、雨が流れ着いた火山の深部なのだろう。壁際にはボロボロになった布や金属らしき物が無造作に置いてあった。



「……うん。早めに移動した方が……。」



何かが動く音がした。長い爪が地面に当たる、人間にはまず出せない音だ。



「モンスターみたいね。フィーくん、戦える?」



「うん。平気だよ。」



腰に手を伸ばすと小剣に振れた。良かった。剣は無事だった。


恐怖心はもちろんある。けれど、この状況で怯えて固まるという選択肢はない。


唸るような声が聞こえた。音の主が少しずつ近寄ってくる。


やがて、暗闇の中からそれは姿を見せた。


上体を起こした大きなトカゲだ。大きさから言って、もはやドラゴンと表現する方が近いかもしれない。少し開いた口から牙を覗かせている。


サイズは二メートルくらいか。人よりも少し大きいくらい、と言えばましに聞こえるが、その牙や爪、尻尾を考えると安心なぞ到底できっこない。



「二体みたいね~。片っぽお願いね~。」



「う……うん!分かった!」



モンスターとの戦闘は初めてだ。


フィカスはその状況による緊張感と、アベリアのいつもの緩さのギャップに戸惑いつつ、小剣を鞘から引き抜き構えた。


そして、この空間が何なのか理解する。


きっと、先に来た冒険者も同じようにあの穴を見つけたのだ。そして、同じようにこの池へと落ち、その音に誘われたトカゲに襲われたのだ。


ここにいるのは二体。けれど、二体だけでほぼ全ての冒険者がやられるとは想像し難い。きっと、奥にもっと多く住んでいる。


つまり、あまりここに長居すると、うじゃうじゃと来るに違いない。



「さぁ来い!」



ならば、さっさとやっつけてこの場から離れるに限る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ