24:洞穴
急な坂道を下りていくと、薄暗く天井の高い空間へと出られた。
足元には大小様々な石が転がっており、とても何かが住める環境ではない。
「松明がなくても平気ですね?節約していきますよ。」
ほぼ一本道の曲がりくねった洞窟を進んで行く。天井がかなり低いところもあり、思っているよりも中々進めない。
「……なんも出ないな。」
「……うん。」
危険と聞いていたので、何だか拍子抜けだ。もしかしたら、モンスターとかの危険ではなく、事故が起こりやすいとか、そういう類のダンジョンなのかもしれない。
転ばないように足元に注意しながら歩いているうちに、徐々に暑くなってきた。
ずっと無理な姿勢で動いているから、ではなく……。
「熱が近くにある。ずっと下り気味でしたし、火山の深部に近づいているのかも。」
「だとしたら、大変かもね~。」
買ってきた防具は確かに熱に強い。けれど、強さの分類が違う。モンスターの火炎などを想定した防具であって、気温の暑さに強くなれるわけではない。
「こう、暗くて暑いって不思議な空間だよな。」
「ですね……少しばかり休みますか。」
いったん、全員腰を下ろした。ごつごつした地面で座り心地は最悪だが、足を休めないとこの先保たなくなってしまう。
「思ってたより……ダンジョン攻略って、地味なんだね。」
「ええ、まぁ……地図もないダンジョンですと、こうやって歩き回るだけになりやすいですね。これからのことを考えると、私たちで地図を作らなくてはいけないのですが、紙もペンもないので。」
モンスターの根城のようになっているとばかり思っていた。これなら、遺跡調査のクエストと大して変わらない。
「とはいえ、油断はできません。生還したパーティーから内情を聞けていれば楽でしたが、それは仕方ありません。進みましょうか。」
ダンジョン探索に必要なことは、休憩を適度に入れること。
無理をして消耗したところにモンスターが押し寄せる可能性があるし、賢いモンスターが住みついていれば罠が仕掛けられているやもしれない。
そういう状況に陥ってしまった場合、どれほど余力が残されているかが生死の分かれ目となる。
天井がまたもや低い通路を延々と歩き、いいかげん腰が辛くなってきた頃、ようやく天井の高い広々とした空間に出ることができた。
とは言っても、岩が転がっているだけで他に何も空間だ。
「……妙ですね。」
「何が~?」
「何もないんです。」
フィカスは薄暗い中、目を凝らして辺りを観察する。
「……うん。何もないね。」
「何が変なんだ?」
「何もないこと、です。」
サンナは屈んで石を摘み上げた。
「ここまで来ても先に来た冒険者の痕跡が、何一つない。これはおかしい。」
「あー確かに。俺たちの前に来た奴らが、いるはずだもんな。」
あれ……?
フィカスは、闇が一段と濃くなっている箇所を発見した。
近寄ってみると、人がギリギリ通れるくらいの真下に開いた小さな穴だった。
「どうしたの~?」
穴の前に屈んだフィカスの傍にアベリアが座った。
「ああ、うん。ここに穴があるんだ。抜け穴かもって思って……。」
「あら?どれどれ……。」
フィカスの背中に掴まり、肩越しに穴を覗くアベリア。
「う~ん……ちょっと、暗くて良く分からないわね~。あと、ここ。グラグラしてるから、あんまり体重かけると、もしかして……。」
アベリアが何を言いたいか察した。確かにこの場にいると危なそうだ。
そう判断して、立ち上がろうとしたその時。
ガラッ……。
石が転がるような音がして、フィカスはバランスを崩した。
「えっ……?」
そう声に出た時には、既に真っ逆さまに落下していた。