21:採掘
怪盗シャドウの騒動から一週間――
サンナの身体の調子も元通りとなり、フィカスたちは採掘クエストをこなして生計を立てていた。
ツルハシを振るって鉱石を採掘し、大きめな袋に入れる。地味な作業だが体力はどんどん奪われていく。
「いったん、休憩にすっか!」
元気がなくなってきたフィカスを案じて、ジギタリスは休憩をパーティーに呼びかけた。
「大丈夫?ほら、お水飲んで。」
「うん。ありがとう、アベリア。」
ともに死線を乗り越え、こうして毎日一緒に労働することによって、出会った頃に比べ打ち解けられた気がする。
「そろそろ貯金にも余裕ができてきますし、フィカスの本でも買いますか?」
「もう貯まってきたっけか?じゃあ美味いもんでも食いにいこうぜ!」
「……私の話、聞いてましたか?」
サンナはジト目となり、ジギタリスを睨みつけた。
「あら~。だったら、オススメのお店があるわよ~。『ヴェイトス・オムニス』っていうの。行ってみない?」
フィカスとアベリアが朝に散歩した時に見かけた喫茶店だ。
ちょうどいい機会だし、行ってみてもいいかもしれない。とフィカスは思った。
「おう。その店なら商人仲間から聞いたことがあるぜ。可愛いウェイトレスがいるってな!」
そう言ってガハハ!とジギタリスは笑った。
「じゃあ、このクエストが終わったら皆で行ってみようか。」
「フィカスまで……まったく……しょうがないから、行ってみますか。」
三人から勧められ、サンナは反対を諦めた。そして、崖下の景色を眺める。
森の中を進む影が複数。遠目で判別はできないが冒険者だ。
「何かあったっけ?」
「さぁ?冒険系のクエストは見てないので。」
パーティーがここまで来ているのだから、何かしら起きているのだろう。
「あの森の先って……火山か。凶暴なモンスターでも出たんじゃねぇか?」
「火山って……遠いね。」
フィカスは遥か先にそびえ立つ大きな火山を見やる。
火山といっても今は大人しく、近年で活動したことはないそうだ。
「そうね~。あそこまで歩くのは大変よね~。」
「そうですね……さて、そろそろ作業を再開しますか。」
サンナはツルハシを持って採掘場に移動した。それを見て皆も休憩を止め、それぞれ採掘に精を出す。
日が暮れ始めた頃、パーティーの手が止まった。
「……ちょっと張り切りすぎたな。」
パンパンに膨れ上がった二つの大きな袋を見て、ジギタリスは呻いた。
これを持ち帰るのは、骨が折れるぞ……。
「じゃあ帰りましょう~。」
どうやって持ち帰るか、それを悩んでいるとアベリアがあっさり二つの袋を持ち上げた。
「どうしたの?」
アベリアの怪力を忘れていた。キョトンとしたアベリアの様子に三人は笑った。
「うん。帰ろっか。」
夕日に照らされる山道を歩き、太陽が地平線に沈む頃に町に到着した。
「さって、どうする?」
「どうするも何も、ギルドに行って鉱石を受け取ってもらわないと。その後に汚れを流して食事。それと、明日のクエストも探しておかないと。」
やることがいっぱいある。今日、喫茶店に行くのは諦めた方が良さそうだ。
大きな袋を二つ持った少女に町の視線が集まり、何だか居心地の悪さを感じながらギルドに到着。鉱石を受け取ってもらい、換金して浴場へと直行。
お湯で汗と汚れを流して、ほっと一息。
筋肉、少しはついてきたかな……?
少しばかり筋肉質になった自分の腕を見て、フィカスはクエストの成果を実感した。
「力、ついてきたんじゃないか?」
「いや、まだまだかな……。」
ジギタリスのマッチョな肉体を見て、フィカスはそう口にした。