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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
208/222

204:印象

これで両戦力は、英雄と呼ばれるに相応しい存在のみが残った──。


倒れたサンナが衛生兵によって回復され、エレジーナにおぶわれて退場するのを見届けてから、ノウェムはため息を吐いた。


結局、自分は何も出来ずに審判という仕事をしてきただけ……。


やっぱり、それじゃ駄目よね……。


”元”勇者の仲間たちは何やら町中の冒険者に訴えかけているようだし、”賢者”も夜中にどこかに行っていたみたいだ。


きっと皆、自分に出来ることを探して動いている。より良い結果を得るために。


それなのに姫という立場でありながら、国王である父には逆らえない、という言い訳をして傍観していていいわけがない。



「……よし。」



もう一度、しっかりと父と話そう。


私に出来ることは、きっとそれだけだから。



「──お父様。お話があります。」



父の寝室を訪れると、単刀直入に私は話を切り出す。



「試合の結果により、彼の処遇を決めるというお話ですが……。」



「その話か。それについては、私もよく考えていた。」



「えっ?」



想定外の返答に変な声が出てしまった。



「どうしたノウェム?この私が残虐なことしか考えてないとでも思っていたのか?」



「い、いえ。そういうわけではなく……。」



正直、少しばかり図星だった。


いつも仕事──つまり国のことばかり考えていて……国王という立場であるため、それが当然ではあるのだが──第一主義で、厳格で優しさを見せない。


それが父に対する印象であった。



「彼の……勇者候補の戦いを見て、少し考えを改めねば……と思ったのだ。」



父は椅子にもたれかかり、疲れたように天井を見上げる。



「それと同時に、英雄の実力に恐ろしさも感じた。もし彼らが本気で襲いかかってきたなら……と考えてしまってな。」



”賢者”ドゥーフ


”魔人”アズフ


”聖人”アギオス



それぞれ別大陸で最強と称される存在だ。


この試合でも国際連合の勝利は全て彼らが挙げている。



「彼らのうち一人が敵に回っただけだとしても、場合によっては国が亡ぶ。」



私の方に視線を向ける。



「だからこそ、勇者候補の彼と……”魔女”を確保する必要がある。負けた場合には約束通り彼らには国のために働いてもらう。もし英雄に勝てたのなら……願いを一つ叶えると約束する。それを伝えてくれまいか?」



「……はい。承りました。」



根本的な部分はほとんど変わっていない。


だが父の彼に対する印象は大きく変化してきている。



「それではお父様。失礼いたします。おやすみなさい。」



それは良い兆候だ。


このまま全てが上手くいけば、平和的に事態を解決出来る。


父の寝室を出ると、使用人の手伝いをしてくれている少年の姿を捜した。












「すみません。負けてしまって……。」



「まっ、あれは仕方ないわよ。相手が上手だった……それだけよ。」



頭を下げるサンナをなだめるように、セプテムが頭を優しく撫でた。



「これで向こうは英雄の三人。こっちは私とフィカス。」



長かった試合も大詰めだ。



「次の勝負で勝つから、実質同数(イーブン)ね。それで……どっちが出る?」



もの凄い自信だな……。


サンナは聞きながらそう思い、そもそもセプテムがそういう性格であったと再認識した。


怪盗シャドウの頃から、自信家な発言が多々あった。あれは演技ではなく、元々の気質であったということか。



「僕が出るよ。」



フィカスが即答する。


これはサンナの出番が決まった時から考えていたことだ。



「アズフが二回連続で出てくるっていうのは考えにくい……から、アギオスかドゥーフが来るわけだけど……どっちが相手でも、どうにかなると思う。」



「ふーん……。」



セプテムは若干不満そうだが、ひっそりとエレジーナは頷いた。


魔法センスの相性的に、フィーくんが出た方が良いよね。逆に”魔人”はセプテムちゃんの魔法で派手にいった方が良い。



「おう!それでいいと思うぜ!」



「フィカスさんなら、誰が相手でも勝てますよ!」



ジギタリスとエヌマエルが嬉しそうに何度も頷く。


その隣でマカナとウルミも静かに頷いた。



「ありがとう。それじゃあセプテム……僕でいいよね?」



「ええ。任せるわよ。」



ここまで士気が高まっているのなら、素直に譲った方が良い。


セプテムは頭の後ろで手を組むと、アベリアの方を見る。



「ほら、あんたも何か言ったら?」



「えっ?……うん。」



緊張した面持ちになり、アベリアはフィカスを見つめる。


そして小さな声で呟く。



「頑張って。」



何で告白してからそんな調子なのよ……?


セプテムは額に手をやる。


気持ちを伝えたらかえって恥ずかしいって……どんだけ初々しいのよ。この様子じゃあこれからしばらくの間、これを見せつけられることになりそうね……。


ちなみにアベリアの告白の出来事は、なんか様子がおかしいエレジーナから聞き出した。



「──うん。任せて。」



フィカスはしっかりと頷いた。



そして翌日──。



いつも通りの装備をして、フィカスは舞台に向かう。


重要な局面ではあるのだが、気負いとかは特にない。


一度立ち止まり、腰に手を伸ばし短剣の柄に触れる。


──よし。


行こう。

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