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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
207/222

203:注意

小さく、短く息が漏れる──。


サンナはアズフに肉迫し、両手に持ったナイフで休みなく攻撃を繰り出す。



「……。」



アズフはサンナの顔を見つめながら、他人事のようにナイフを捌いていく。


刀で右からくる刃を受け止め、手首を捻って左からくるナイフに刀の先を当てる。受け止めることは出来なかったが、狙いから逸らすには充分な効果があった。


ことごとく防がれ、躱されるもサンナの攻撃は止まない。低い体勢を維持し続け、攻撃を繰り出し続ける。


……荒っぽいなぁ。


前の戦いで見せた戦術はなんだったのか?頭をまるで使わず、ただやみくもに攻撃しているようにすら感じる戦い方だ。


何か役立つと思ってたけど、こんなのだったら早めにケリを着けていいかも……。



「……。」



……そろそろか。


不意にサンナは背筋を伸ばし、右手のナイフを放り投げた。



「……ぐふっ!?」



アズフの意識が上へと向いたその瞬間、膝を腹部に入れる。


低い姿勢を維持して攻撃し続けていれば、それが普通に思えてくる。そしてただ連続で単調な攻撃仕掛けるのも同様だ。


実際には僅かな時間であったとしても、戦いの最中ではそれも長い時間のように感じられる。



「……なるほどねぇ。」



そのまま組み伏せられた状態で、”魔人”はニタァ……と笑う。


さっきまでのは全部、普通と認識させるためのものだったのかぁ……そこに急に別のことをやられたら、注意力がそっちに向いてしまう。


この状態まで持っていくための作戦だったのかぁ……。



「前言撤回するよぉ。君……やっぱり面白いなぁ。」



その言葉にサンナは背筋に悪寒が走った。


まるで危機感を感じていない……本当に人なのか?こいつは?


……いや、動揺するな。ここで気を抜いたら形勢逆転される可能性がある。



「……殺すのはルール違反ですが……腕を奪うことは違反ではありませんからね……。」



たとえ回復魔法持ちに変化へんげしたとしても、切り落とした腕を再生することは不可能なはず。ここで腕を失わせれば充分に……。



「あれぇ?もしかして動揺してるのぉ?」



アズフの身体が動いた。


上に乗るサンナの身体を突き飛ばし、脚を振り子のように振って起き上がる。そして着地した時に曲げた脚をそのままバネとし、サンナの身体に突撃する。



「なッ!?……ぐッ!」



胸元に頭突きされ、動揺するもそのまま頭を両手で掴む。


この際、どうやって脱出されたかはどうでもいい。奴は今、武器を持っていない。不意を突かれたが、このまま対処する……。



「無駄な抵抗に変わりは……がぁッ!?」



急に身体に締め付けられる激痛が走る。



「考えちゃダメだよぉ……?もっと必死にならないとぉ……。」



アズフの両腕がまるで触手のような、不気味な黒く長い腕へと変化していた。時折浮かぶ泡のようなものは、見方によっては鼓動のようにも目玉のようにも見える。


それがサンナの身体を絡め取り、引き裂かんとばかりに縛り付ける。



「こッのッ……があぁッ!?」



何とか振り解こうとするも、力が強すぎる。頭を掴む手から力が抜け、魔人の顔が見つめてくる。



「ほらほらぁ考えて何とかしてよぉ?でも考えて動いちゃダメだよぉ?」



「ぐっ……なに……を……ッ?」



一体何を言いたいんだ魔人こいつは?


……ダメだ。魔人の戯言に耳を貸すな。


それよりも今は、どうやって脱出するかだ。


激突された時にナイフを落としてしまった。もう一本は投げてしまった。手元に武器はない。だが振り解くだけの力がもう入らない。激痛を堪えるのに精一杯だ。


……なら、武器を新しく取り出すしかない。



「ぐぅ……ッ!」



歯を食いしばり、両手を動かす。


よし……少しなら動かせる。


ナイフはあと四本、身に着けている。ブーツに二本と腰に二本だ。


ブーツに隠したナイフを取り出すことは不可能。ならば腰に帯刀しているナイフをどうにかして引き抜くしかない。



「このッ……放せッ……!」



悪態を吐き注意を逸らし、ゆっくりと腕を腰へと伸ばす。密着している状態とはいえ、服がこすれることである程度なら動ける。


……あと少し……もう少しで……届く……。



「……ねぇ?」



ナイフの柄に手が触れた。


その瞬間に話しかけてきた。



「……なんだ……?放す気に……なったの……か?」



これで腕を斬れば、この厄介な拘束も……。


…………。


ナイフを引き抜こうとしたその刹那、どうにも嫌な予感がした。


こうもあっさり反撃出来るものなのか?


そもそも、どうして魔人は拘束という攻撃しかやってこない……。



「あ、気付いた?」



その言葉を聞いた瞬間、分かってしまった。


分かったその時には、既に手遅れということも……。



「がッあッ……!」



腰に何か鋭い物が刺さった。そして拘束が解ける。


何が……爪……?


異様に長く、不気味に蠢く腕の先がナイフのようになっている。


……あんなことも出来るのか……。


爪が迫ってくる。


逃げないといけない。けれど身体が思うように動かない。先ほどまでのきつい拘束が響いている。


いや……そもそも……。



「ッ……!」



爪で身体を深く斬られ、サンナは倒れた。



「普通と思った時点で、後手ってことなんだよねぇ?」

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