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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
203/222

199:速さ

互いに刃を引き抜くも、斬りかかることはせずに相手が動くのを待つ──。


静寂な緊張感が舞台を支配していた。



「……。」



……意外だな。


ナイフを右手で弄りながら、リコリスはフィカスの表情を窺う。


想像していたよりも、乗ってこない。


相手の全体を深く観察して、隙を素早く見つけて攻撃する──それが彼の戦闘スタイルだと思っていた。けれど今の彼には、そういった様子が見受けられない。


こりゃあ……知ってるみたいだね。


僕の立ち回りを。多分、マカナくんからの情報かな?前に一度戦ったことあるし。



「……。」



リコリスが思案している間、フィカスは注意深く観察を続けていた。


二重のベルトと上着の裾で見え辛いけど、腰には左右に鞘が二本ずつ。長さは同じに見えるけど、マカナの話からすると、入っている刃の長さはまちまちのはず。


そのリーチの異なる武器をかわるがわる使用して撹乱させつつ攻める──それがリコリスの戦闘スタイルだ。


それに加え、霊体化がある。幽霊として相手をすり抜け、人として攻撃する。


この戦術を攻略するためには……。



「……おっ。」



フィカスが動いた。


ようやく動いてくれたか。


リコリスは安堵しつつも、冷静にフィカスの動きを観察する。


自分から仕掛けるっていうのが、どうも苦手意識があるんだよねぇ……仕掛けてきてくれてありがたい。さてと……。


踏み込み方からして、左右に動くってのはない。まぁ無理やり重心を傾けてって可能性もなくはないけど……それ必要とする場面でもない。


つまり、真っ正面から斬りかかってくる。



「ほいっ。」



リコリスは霊体化する。


これによりフィカスの小剣は、リコリスの身体がある位置でただ空を切る。


そのままリコリスは前方へと移動し、フィカスの背後をとる。


これで実体化すれば、そのまま背中を刺して終わりだけど……。



「……っ!?」



これで終わるとは思っていなかった。


それでもリコリスが驚いたのは、フィカスの行動だ。


立ち止まると後退し、リコリスに身体を寄せたのだ。



「……やっぱり、こうしたら攻撃出来ないよね。」



「っ……まぁね。」



普通、身体をすり抜けられて背後に立たれたら、距離を取りたくなるっていうのに。逆に近づいてくるとは。


──だけど、対策はこれで合っている。


霊体では攻撃出来ない。だが密着した状態で実体化したら、どうなるか分からない。だからこの状態では攻撃を仕掛けることが出来ない。



「でもこれだと……フィカスくんも僕を攻撃出来ないよ?」



「うん……そこが問題なんだよね……。」



リコリスが霊体を維持し続ければ、誰も触れられない。ある種無敵状態だ。


でも……この勝負において、それはあまり意味がない。制限時間がない以上、どこかで実体化して攻撃に出る必要がある。



「また我慢比べをしようっていうのかい?」



「大丈夫……そのつもりはないよ。」



そう言うとフィカスはバックステップで距離をとった。



「なるほど……。」



一度密着してみせたのは、そういう回避方法があるから、霊体化に意味がないっていうのを知らしめるためか。


だったら、それ抜きにして戦うしかないか!


リコリスは前進し、ナイフを突き出す。


フィカスはそれを小剣で弾き、そのまま追撃に出ようとする。それに対しリコリスは下がり、一回転してまたナイフを突き出した。



「ッ……!」



今度はフィカスの手の甲が浅く切れた。



「ほら、もう一回いくよ!」



身体をねじり、ナイフを腰から振るう。


フィカスはまた小剣で弾こうとするも……今度は当たらない。



「くっ……!」



死角で武器を持ち替えているのか!


長さが変わっているか一瞬では分からない。だから一手前と同じ対応方法になってしまう。そこを突かれさっきは手を浅く切られ、今は空振ってしまった。


今の体勢は不味い……!


フィカスは大きく後ろに跳んで、創造魔法で目の前に大きな壁を創る。



「無駄だって。」



リコリスはそのまま壁をすり抜けて現れた。


幽霊を前に、如何なる障害物もその役割を果たさない。


だったら……!


フィカスは前に出る。



「おっと!」



リコリスはそのまま彼の身体をもすり抜ける。


ヘタに守りを固めるより、こうした方が確実だよね……でも。



「そっちは壁だよ、君の創ったね。」



これで彼は自らの創った物で追いつめられる形となった。


さぁ……どうする?


この状況からどうやって逆転する?それを僕に見せてくれ。


フィカスは振り向き、壁を背にして目を閉じた。


深呼吸を一つ──。


そして目を開けると、リコリスのナイフを弾き飛ばした。



「……え?」



別段動きが速いわけではなかった。ただあまりにも滑らかな動きで、目で追うので精一杯になってしまっていた。



「ッ……この!」



リコリスは長さの異なるナイフを二本引き抜き、フィカスに斬りかかるも正確に防がれ、弾かれていく。


何をしているんだ?


忘我状態フローか?いや、それの速さではない。速さ自体はこれまでと変わっていない。



「すっご……一体何を……?」



客席でラフマが感嘆の声を上げた。



「……忘我状態フローだろ。」



フィカスの動きを見て、ドゥーフがそう呟いた。


その言葉を聞いて、ラフマはそちらを向く。



「でもあれって、凄く速くなったりするもんなんじゃ?」



「普通はそうだよ。」



アズフが頷く。



忘我状態フローっていうのは、無我夢中っていう感じでね。周りが停まって見えるほど集中した状態になるんだぁ。」



「それが結果的に速く動いているように見えてるってわけだ。でもあいつは今、ワザと遅く動くことを意識してやっている。」



ドゥーフの言葉を聞いて、ラフマは改めて舞台を見る。


フィカスの動きに不自然さはない。けれどリコリスの手を全て封じて、勝利を収めようとしていた。



「ああもコントロール出来るようになれば、もう相手出来るヤツなんざほとんどいねぇだろ。」



喋りながら、ドゥーフは無意識に笑っていた。


ようやく……ようやくだ。

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