198:魅力
「ねぇ?どうして最後、攻撃止めたの?」
「うるせぇ。知るかよ。」
レグヌム城にて──。
アズフがしつこくドゥーフに質問を行い、ドゥーフは鬱陶しそうに手を振って近寄せないようにしている。
見方によっては、じゃれ合うカップルのようにも見える。
……それを口に出したら、凄い怒られるんだろうなぁ……。
リコリスはそんなことを思いつつ、ドゥーフに質問する。
「明日の試合は僕?それともアズフさん?」
アギオスさんはまだ治療中なわけだし、出てもらうわけにはいかないだろう。本当は棄権してもらいたいくらいだけど、多分王様が許さない。
というか、フィカスくんたちが勝ったとしても、素直に彼らの要求を受け入れてくれるのだろうか?
そこのところが不安だ。
「テメェだ。幽霊。」
「はいはい。」
口が悪いって点は違うけど、やっぱりどこか似ているんだよなぁ。スクォーラくんと。
大陸最強の──英雄と呼ばれる存在は、そういう人がなるってことかな?
「じゃあ明日は僕が出るってことで。」
互いに残る戦力は半分。
明日に僕が出るってことを向こうも予想しやすいはず。
もし予想しているとすれば……誰が来るかな?
どうせ準備することもないし、僕も予想してみよう。
「フィカス、出番よ。」
一方──。
開口一番、セプテムがそう言った。
「次に来るとすれば、リコリスかアズフ。どっちが来るにしても、相性は悪くないはずよ。」
視線が集まり、フィカスは静かに目を閉じる。
──ここまで、ずっと皆に助けられてきた。
皆はこれまでの恩返しと言ってくれた。
だったら、ここからはまた僕からの恩返しだ。
きっとそれが交互に、ずっと続いていく。それが仲間っていうものであり、絆ってことなんじゃないかって思う。
「──任せて。」
目を開ける。
大丈夫。皆からの期待にプレッシャーを感じることもない。
アベリアと目が合った。
彼女は静かに微笑む。
その微笑みを見て、勇気を貰える。そんな気がする。
今はただ、目の前のことに、戦いに集中する。
それが終わった時に、自分の感情に素直になって、彼女に答えを出そう。
「明日……絶対に勝つ。」
そして翌日──。
フィカスは戦闘準備が少ない。
武器も防具も創造出来るため、あらかじめ用意しておくべき物がほとんどない。
必要なのは丈夫な服と最低限の武器。
それと気力くらいなものだ。
「それじゃ、行ってくるよ。」
「はい。頑張ってください!」
今回、六号とエヌマエルは留守番。
六号はまだ安静にしておいた方がいいし、万が一に備えて誰かが傍にいた方がいい。
その役を真っ先に買って出たのはエレジーナだったが、当人の強い希望により却下となり、代わりにエヌマエルがやることになった。
宿舎を出、闘技場へ。
「フィカス。」
選手用の通路に入ろうとした時、セプテムが声をかけてきた。
「……やっぱ何でもないわ。頑張って。」
「……?うん。」
何かアドバイスしようとしたのだろうか?
もし、その必要がないと思ってくれたのなら、それは嬉しいことだ。
恐らく英雄と同等の実力を持った”魔女”セプテムがそう判断したのなら、その信頼は自信となるには充分過ぎる。
暗い通路を歩き、前方にある光を目指していく。
その先に──舞台に誰かが立っている。
「やぁ。やっぱりフィカスくんだったね。」
「リコリス……。」
向かい側にいる彼は肩をすくめる。
「なんか、予想してたって感じだね。でも僕も、来るなら君なんじゃないかって思ってたよ?」
リコリスはニヤリと笑う。
ここまでフィカスくんの出番は、不自然なほどなかった。
多分、出さない方が味方の士気向上に繋がると判断したのだろう。そういうことを考えそうなのは、セプテムちゃんかサンナさんかな?
そしてお互いに人数が半分になったところで出すことにより、落ちてくる士気をまた高めることが出来る。
「それに君のパーティの誰かと戦えるのなら、やっぱり君と戦いたいって思っていたよ。」
ラフマも言っていたけど、初めて出会ったあの時に注目されていたのはアベリアさん、次点でサンナさんだと思う。新米パーティの中で、既に完成された実力を持っていたから。
良くも悪くも、君はあの時にはまだ不安定だったんだ。
創造魔法っていう、非常に強力で希少な魔法を持っていながらも、それを戦闘に生かす方法をほとんど知らなかったんだ。
だからこそ評価も二分化。
期待出来るって見方もあれば、実力が伴う前に死ぬって見方もあったと思う。
「君には……今の君には、周りを惹きつける力がある。」
出会った時には、ここまで凄い存在になるとは正直、思っていなかった。
それでも惹きつけられる何かがあったように思える。
「そんな君と……真剣に手合わせしてみたいんだ。」
英雄と呼ばれる存在は、どこか似ているように思える。
それはきっと、理由は違えど、人を惹きつける魅力だ。
今の君には、それがある。
英雄と呼ばれるに相応しい存在に成長したということだ。
「出会った時から……あの時からそれだけ成長したのか……尋常に勝負だ。」