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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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196:戦略

「いやー凄かったよサンナちゃん。」



「……どうも。」



宿舎への帰り道──。


エレジーナがサンナを褒めるも、サンナはぶっきらぼうに返事をし後ろをチラリと見た。



「……話さなくってよかったの?」



「……ええ。特に話したいこと、ありませんから。」



試合が始まる前の会話で、色々と言いたいことも出てきた。けれど決着の瞬間を迎えた時、何を言ったらいいか分からなくなって、結局何も言わないで別れた。


だがそれできっと良い。


協力関係を結んだ相手であるとはいえ、今は敵同士だ。


負けたラフマはもういいのかもしれないが、私にはまだ試合が残っている。余計な情は持たないようにした方がいい。



「それよりも、明日の試合です。相手の残り戦力は四人。」



現在、こちらが一人リードしている。


このまま順当にいけば……勝ちだ。



「上手くいけばねー。」



宿舎に到着し、早速会議を始める。


相手の人数が半分になった。そろそろ選出を読んでいきたい場面だ。



「……明日は……私が出る……。」



聞き慣れない声がした。


皆が思わず声の主を捜して顔を動かすが、マカナの視線が動いていないことに気付き、次いで声の主が誰であるかに気付く。



「……いいでしょ?」



「六……号……?」



声の正体はウルミ──通称、六号だ。


今まで数えるほどしか発声しなかった彼女が喋り出した。



「多分……英雄の誰かがくる。……だったら、私が出るのが……多分、一番いい。」



「六号ちゃん……喋るの初めて見た。」



「えっ?嘘でしょ?」



エレジーナの驚くところがズレている……が、その気持ちは分からなくもない。


無口な彼女が急に喋り始めて──。



「聖人は来ない、と思う。賢者か魔人……どっちが来るか分からないけど……どちらにせよ、皆を温存するべきだと思う。」



──戦況を冷静に分析し、同時にこの勝負における自分の価値も理解している。



「情報を引き出すって意味でも、私が出て問題ないと……思う。……何かある?」



「いいんじゃないかしら?ベスト……かどうかは分からないけど、ベターな選択だと思うわ。」



真っ先に頷いたのはセプテムだった。


国際連合はもう、三英雄で勝ちにいく策のはず。ならその実力を、戦略を出来るだけ引き出しておきたい。チームとして勝つには、そういう戦略も必要だ。


ラフマは恐らく、クッションのような役割として起用されたのだろう。


勝っても勝てなくてもさほど影響しない駒──いわば捨て駒だ。



「アギオスを回復させる時間稼ぎって意味もあるだろうし、ドゥーフかアズフが出てくる。その次はまた捨て駒としてのリコリスか、もう一人の英雄。」



「そこまで読めるなら、次の勝負を重視した方がいいってわけだねー。」



セプテムたちの会話を聞いていて、マカナは顎を摘まむ。


戦略としては、向こうと同じ思考っていうわけだ。


それで合っているのか?別の手があるんじゃないのか……?



「うん……だから私が出る。まともにやって、私が勝てる相手はいない、と思う。」



ウルミは皆の顔を見回す。



「私はこのパーティが好き。エレジーナとジギタリスは……正直ウザいと思うけど、このパーティが好き。」



その言葉に二人はショックを受けた顔になる。



「いや、薄々分かっていたことでしょう?」



サンナがツッコミを入れた。



「だから皆を守るために、私も働きたい。勝ち目はないかもだけど……捨て駒なんかじゃない。一つでも多くの情報を引き出して……次に繋げる。」



「うん。偉いよ六号ちゃん!相棒として、私も誇らしく思うよ。」



「……。」



「あれっ!?」



やっぱり、エレジーナには口をきかないのか。



「エレジーナの相棒は私です!」



黙っていたエヌマエルも混ざってきた。



「いやーモテるって辛いねー。」



「モテてるんですか?それ……。」



段々と騒ぎが大きくなってきた。


うるさいな……出るか……。


マカナはため息を吐いて、そっと部屋を後にした。



翌日──。



「……。」



ウルミはベッドに武器や道具をばらまき、選択に悩んでいた。


賢者が相手なら、軽装の方がいい。魔人が相手なら、沢山持っていった方がいい。リコリスが出てきたら……それは計算外。度外視しよう。



「……。」



やっぱり、全部持っていこう。


そもそも、暗殺者アサシンの道具を普通の冒険者が理解しているとは思えない。


賢者の捻くれた性格的に知っているのかもしれないけど、大きな影響はないはず。魔人だったら知られていても、何も変わらない。


結論、誰が相手でも、沢山持っていく。



「用意、出来たか?」



マカナの声がドアの向こうからした。



「……うん。」



小さな返事をし、必要な物を身に付け扉を開ける。



「繋げるための戦い……って言ったよな?」



「……。」



言った。


それが自分に出来る選択肢だと思っているから。



「どうせなら……勝てよ。」



「……。」



マカナの口から、そんな言葉が出るとは。


少し驚いた。いつもぶっきらぼうで、冷めていて、周囲に無関心な人だったから。



「うん。……勝つよ。」



なら私も、少しは変わってみようか。

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