19:シャドウ・2
「魔法の才能は一人に一つ……そんなこと、誰が言ったんだい?夢に神でも出てきたのかい?」
怪盗シャドウは語り出した。
フィカスたちはこの隙に体勢を立て直すが、それを気にする様子はない。
「自分たちの知っていることのみを常識と考えるのは、ぜひとも止めてほしいね。」
シャドウはゆっくりと歩きだした。
「まぁ……そんなことを言ったところで、犯罪者の戯言を素直に聞く者なんかいない。言うだけ無駄なんだけどね。それでも、僕は言うよ。お前たちの常識だけで世界を図るなって。」
部屋の中央で立ち止まると、左手をガラスケースに振り下ろした。そして、中に飾られているネックレスを手にする。
「さて……どうせ、まだやるんだろう?かかってこい、金持ちの犬ども。」
サンナが飛び出した。
ナイフを床と水平に構え、短いモーションで突き出す。シャドウはネックレスを上着のポケットにしまうと、短刀でナイフを弾いた。
そのまま、両者は激しい斬り合いに入る。相手の隙を伺い、左右に動きながら攻撃を繰り出す。
「これじゃ、不用意に近づけねぇな……!」
下手に加勢にいくと、かえってサンナの足を引っ張る可能性がある。
ならば……!
フィカスは昼間見たブーメランを創造する。これなら、遠距離から攻撃ができる。
「飛び道具を構えてどうする?仲間に当たるかもしれないよ。」
シャドウの言葉にフィカスは投げるのを躊躇う。
「チィ……!」
サンナは戦いながら、内心焦り出していた。
まるで隙がない……!
二刀流で攻めているというのに、身体に掠りもしない。短刀一本で全て対応されている。
仲間の援護も期待できない。今はほぼ互角だが、シャドウは魔法を使っていない。使われたら、すぐにこの均衡も崩れ去る。
その時、視界の隅に、ジャンプするアベリアが映った。
「ふぅ……!」
肉体強化魔法。これを少しばかり発動してアベリアはジャンプしていた。
コントロールが難しく、フルパワーで使ったことはない。けれど、今回の調整は上手くいったようだ。
天井付近まで跳び上がり、両手で天井を押して地上へと急降下。
右腕を引いて、強化魔法を込めた拳を構え、頭上からシャドウへと迫っていく。
人を、生物を、この魔法を使って攻撃したことはない。だが、壁画を壊した経験から、生物に向けて打ち込めばどうなるか、容易に想像がついた。
「えっ……?」
身体のバランスが突如としておかしくなり、アベリアは思わず声を漏らした。
「空中からも奇襲は、流石に初めてだよ……邪魔だ。」
アベリアは風によって絡めとられ、壁に叩きつけられた。
「きゃん!?」
壁に激突し落下したアベリアに、ジギタリスが慌てて駆け寄り回復魔法を発動し始めた。
「大人しくしていたまえ。」
氷の障壁を発生させ、アベリアとジギタリスは氷のドームに閉じ込められた。
「君もだ。」
シャドウは右手を前にかざした。
また魔法か……?
サンナは攻撃を中止し、いったん距離をとる。
何かが光った。青白い閃光が一瞬だけ見えた。
「がぁ!?」
身体に焼けるような激痛が一瞬走り、サンナの身体は動かなくなった。
動かせない……!?なぜ……!?
声も出せなくなり、固まった身体で口だけを動かす。
呼吸も困難になり、徐々に酸欠によって視界が狭まっていく。
このままでは……。
「さて、残るは君だけだ。金髪くん。」