表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
199/222

195:戦術

試合開始の合図とともに動いたのはラフマだった。


彼女の人間離れした身体能力は、一瞬でサンナとの距離を詰めた。そして右腕を横から大きく振るい、その手が、爪がサンナの身体を刻もうとする。



「……ッ!」



サンナはナイフで防ごうとするも、勢いを受け止めきれずに後方へと押し出された。


傷はない……が大した力だ。


サンナはしかめっ面になる。


馬鹿力で押してくる相手は厄介だな。苦手と言っていい部類かもしれない。アベリアと手合わせをしておくべきだった。


だが、やってこなかったこと、現状を嘆いても仕方がない。今やるべきことは、その状態でどう動くかだ。


ラフマのパワーとスピードはアベリアに引けを取らない。少なくとも私よりは上だ。



「……ふんっ。」



確かめる必要がある。戦術を組み立てるのはそれからだ。


私は地面を蹴って、ラフマへと迫る。同時にナイフを鞘から抜き、二刀流の構えをとる。



「……いいね!」



ラフマは歯を見せて笑った。


真っ向勝負は好みだ。目がそう言っている。


距離が縮まり、ナイフが届く位置になる──ところで右へ跳ぶ。



「フェイントになってねぇぞ!」



「──だろうな。」



ラフマは私を追いかけて移動する。


ここまでは想定通り。というより、当然の反応だ。


だから──。


翼を生やし、それを使い瞬時に逆方向へと跳ぶ。



「こっの……!」



ラフマはそれに反応した。だが急停止した足は地面を滑り、数メートル距離が出来る。



「やはりな。」



それを見てナイフを投げつける。



「チ……。」



左腕を軽く切られ、ラフマは舌打ちした。


だが今の舌打ちは、それだけによるものではないだろう。


予想通りだ。


アベリアは”力”によって動きを制御している。だからこそ急旋回にも力で即座に対応出来る。


だがラフマはそうではない。あくまで彼女は動物的な動きだ。如何に人を超えた”力”を持っていようと、力だけで全身を支えることは出来ない。


そこが両者の差であり──。



「──私の勝ち筋だ。」



「……。」



ラフマは歯噛みしてサンナを見つめる。


なんか……思ってたよりずっと冷静だ。


戦う姿を前に見た時から、もっとガンガンいくタイプかと思っていた。だから面白い勝負が出来るかと思ってた。


だけどこりゃあ……たしかに”冒険者”だ。


多分、あたしのイメージにあった彼女は”サンナ”であって、”冒険者”ではなかった。



「……らしくなってんじゃん。」



けれど今は、それらしい知恵と思考を身に付けている。


あたしはそういうの苦手だけど、リコリスとかが得意なことだ。それでもって、多分その方が強い。



「いいよ……面白くなってきたァ!!」





「ねぇ……東大陸に行った時に、何があったの?」



ラフマの攻撃を躱すサンナを見て、セプテムはエレジーナに尋ねた。


それもただ躱しているわけではない。常に次を考えて動いているように見える。当然と言えば当然だが、以前のサンナならもっと攻撃的な戦術を組み立てていたはずだ。


言ってしまえば、らしくない。



「うーん……大したことはしてないよ?しいて言えば、冒険者らしさっていうのを、少しだけ教わったってことかなー。」



「そりゃあ冒険者なんだから、当たり前……。」



いや、そうでもないか。


彼女は冒険者にしては暗殺者アサシン寄りで、暗殺者アサシンにしては攻撃的過ぎる。



「……つまり、あの子の性格に合った戦術を教えたってこと?」



「ううん。」



エレジーナは首を横に振った。



「基礎というか、ちょっとしか教えてなかったはずだよ、魔人は。そこから進化したのは、サンナちゃん自身のものだよー。」



「……そう。」



セプテムは改めて舞台を見る。


サンナはラフマのパンチをスレスレのところで避け、首元目がけてナイフを振る。


ラフマは大きく後方へと跳躍し、それをすんでのところで躱す。


攻撃的な立ち回りは変わっていない。しかし攻め一辺倒ではなくなった。相手の動きだけでなく、相手の思考についても考えるようになった。


それ故に安定した戦い方となった。



「……。」



小さく息を吐く。


──どうくる?


大振りは躱せる。それはラフマからしてみても分かってきたことだろう。ならどうしてくる?相手から見て、私の隙はどこだ?


……きっとあれだ。


ナイフを握り直す。



「……だったら。」



ラフマは足を大きく開き、腰を落とす。


そして全力の速さで跳びだした。


サンナは先ほどから、距離を空けずに攻撃を躱している。カウンターを狙う戦術に近い。


それはつまり、ギリギリで避けているということだ。


だから、それでは躱しきれない一撃なら──!



「……!」



サンナの目が見開いた。


地面を蹴り翼を生やし、低空飛行でラフマから離れようとする。



「逃がす……かぁっ!!」



ラフマはそれを見て跳躍した。


走って追いかけたら、また急旋回で距離を空けられる。その点ジャンプならその問題はない。



「……待っていましたよ。それを。」



サンナは突如、立ち止まった。


そして、腰に差してあった武器──手裏剣を取り出す。



空中そこなら、逃げられませんからね。」



「……ッ!」



手裏剣がラフマの腕に刺さり、バランスを崩して落下したところに接近し、ナイフで背中を斬りそのまま地面へと押し伏せる。



「ぐぎゃっ!」



ラフマが抵抗する前に腕を捻り、動きを封じる。



「私の職業を忘れてしまっては困ります。」



首筋に刃が当てられる。



「──私の勝ちだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ