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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
196/222

192:不穏

「……えっ?」



アベリアは信じられないという表情でアギオスの手にするナイフを見た。次いで、自分の身体に切り刻まれた傷を見る。


何で……?何が……?


浮かんできたのは単純な言葉だけ。それ以上考えることは出来なかった。


大量の血が流れ、身体が地に伏す。



「……これで……決着……だな…………。」



アギオスは肩で息をし、倒れたアベリアを見下ろす。


万が一に備えた奥の手だったが、こうもあっさり必要になるとは……。それだけ彼女が手強かったということか。


試合終了のアナウンスが響くが、耳には入ってこない。


それほどまでに両者とも疲弊した状態だった。



「貴方の敗因……は、私が武術家であると……いう、前提を……持っていた……ことだ……。」



たしかに、以前の私であったならその通りだったのだろう。


けれど魔人とエレジーナの戦いを見て、自分のスタイルに拘っていては勝てないと気付かされた。


そこで刃物をブーツに一本、仕込んでおいた。いざ試合が始まると取り出す機会はなかったが、彼女の一撃で偶然にも取り出せる体勢となった。


つまりこの勝利は、偶然によって得たものだ。



「ふぅ……。」



胸を押さえ、アギオスはよろよろと歩く。


駆け付けた衛生兵からの治療は断り、薬草だけを貰う。


さて……また一悶着ありそうだな……。


客席の国際連合の様子を見て、不安が募る。


そして──。


アギオスの悪い予感は当たった。



「おい、犬。次はテメェが出ろ。」



「あ?誰が犬だ!?」



城に戻った国際連合は、食事を大量に摂り始めたアギオスを横に、不穏な空気を醸し出していた。


原因はドゥーフだ。



「テメェしかいねぇだろーが。犬女。」



「作戦会議に今まで参加してこなかったくせに、急にあたしに命令すんな!」



ラフマはドゥーフを睨み付けるが、当人は鼻で笑った。



「テメェらの頭じゃ分からねぇだろうから、俺が指揮してやるって言ってるんだよ。いいから、黙って従えザコが。」



「あぁっ!?」



「落ち着いてよ!ラフマも、ドゥーフくんも!」



これ以上険悪になるのは良くない。


そう判断したリコリスが間に入る。



「リコリス!こいつは……!」



「まぁまぁ、ラフマ。ドゥーフくんだって、何かしら考えてるってことなんだから、とりあえず理由を聞いてみようよ。」



「……。」



ラフマは一旦口を閉じ、睨むようにドゥーフを見る。


さっさと言え。


目がそう告げている。



「テメェらザコじゃ相手になんねぇ。だから英雄を休ませる捨て駒になれって言ってんだよ。どうだ?納得したか?」



「納得するわけないだろッ!?」



自分が英雄に比べ、実力が劣っていることは理解している。


それでも面と向かって、それもこんな風に言われては怒りが湧いて当然だ。


リコリスが押さえていなければ、ラフマは今にもとびかかりそうだ。



「ハッ!戦闘意欲は充分じゃねぇか。なら、明日は平気だろうな?」



「んだとッ!?」



「ラフマ、ここはドゥーフの言う通りにする。」



敵対心丸出しのラフマの様子を見て、ネモフィラが静かにそう言った。



「ネモフィラまで!なんで……!」



「熱くなるな。……ドゥーフ、これで文句はないだろうな?」



「ああ。ねーよ。」



吐き捨てるように言い、ドゥーフは部屋を出て行った。



「なんなんだよあいつ!?あーもう腹立つ!」



「落ち着きなってラフマ。賢者がああいう人なのは、分かっていたことでしょ?」



やれやれ。


フィカスくんの元に集った向こうとは違って、こっちはただの寄せ集め。衝突もあって当然だけど……この調子じゃあ、この先も大変そうだよなぁ……。



「……で、アギオスさんはどうしてそんなに食べてるのさ?」



言い争いの間、居心地悪そうに隅にいたアモローザやノソスと違い、彼女はずっと食事を続けていた。しかもとても少女が食べる量ではない。


細いけど、もしかして大食い?



「うむ?回復するためだ。」



薬草によって痛みは和らいだ。これで食事も会話も滞りなく進めることが出来る。



「回復?」



「うむ。私の能力センスは知っているな?それはつまり、回復魔法も受け付けないということだ。なので、こうして栄養を摂って回復していくしかない。」



「あー……なるほど。」



魔法が効かないって無敵に近い能力センスだと思っていたけど、そういう弱点もあるのか。


同時に、彼女が攻撃を受け流していく戦闘スタイルなのにも納得がいった。あれは極力、怪我をしないようにするための立ち回りだったんだ。


……それにしても。


聖人は話しやすい人で良かった。魔人も賢者も……勇者も、仲良くなりにくい雰囲気だからなぁ……。英雄の唯一の良心だよ。











「おい、ついて来んじゃねぇよ。」



「いやいや、そんなこと言わないでよ賢者くん?」



部屋を出たドゥーフの後を追い、アズフもまた部屋を出ていた。


そして後をついて行き、横顔を見つめる。



「チッ……俺にいったい何の用だ?魔人。」



しつこいと思ったのか、ドゥーフは立ち止まりそう問いかける。



「いや~急に元気になったみたいだから、どうしたのかなって?私と聖人ちゃんの勝負を見て、やる気になったとか?」



「んなわけねぇ……が、そういうことにしといてやる。」



得体の知れない魔人に自分の見解を話すのも面倒だと思い、ドゥーフはアズフの言うことに肯定した。



「そっかぁ……じゃあさ、私と戦ってよ?そのやる気をぶつけてほしいなぁ?」



「あ?やるわけねぇだろ。」



即答し、ドゥーフはアズフから去っていった。



「……残念だなぁ。」

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