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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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191:奥の手

負けたら、勝ちを取り返す。


シンプルにして、勝負の根幹と言える。


だからこそ場面が大きく動いた時には、それに対応出来る存在が求められる。



「こうして貴方と対面する日が来ようとは……可能性があるとはいえ、あまり想定していなかった。」



「あら?私はこうなるかもって思ってたわ~。」



アベリアと試合をする人物──。


”聖人”アギオスだ。


アベリアの協力者であり、特訓の相手もしてくれた……師匠とも言える人であり、格上とも言える相手だ。


でも……。


それを言い訳にしても何も変わらない。


この人を相手にして、勝たないといけないんだ。


客席から見守る彼を──フィーくんを見る。


私の初めての友達であり、心惹かれた人。



「む?どこを見ている?」



「……なんでもない。いくわよ……。」



全身に肉体強化魔法を発動させる。


アギオスの能力センスは、肌に触れた魔法・魔力を無効化するというもの。また、跳ね返すことも可能だ。


本来ならば、魔法を使わずに戦うのが正しい。けれど、それで勝てる相手であるとは思っていない。魔法を使わなければ、きっと負ける。



「それでは試合……始め!」



合図とともに、私は地面を蹴って肉迫する。


魔法に触れると無力化する?


だったら、直に触れないところから殴るまで!


アギオスの服装は露出の多い、水着に近い恰好だ。それでも布に覆われている部分はある。


そこを叩く──!



「思い切りのよさは身に付いたようだな。」



アギオスはアベリアの手首を掴み、叩くように外へと流した。そして相手の顔を掴む。



「ふぐッ……!」



アベリアは反射的に顔から手をはがそうとし、その隙に腹部に拳を叩き込まれた。


半歩下がったが、アベリアはすぐに前に出る。そして力のこもった拳を突き出す。



「ふむ……。」



アギオスの指がピクリと動いた。


直後、身体を右へと半回転させ、左手をアベリアの拳に沿わせて動かす。


手の甲に付けられた籠手でパンチを流し、アベリアの真横に立つ。



「うくっ……!」



そして肩で体当たりして、バランスを崩したところで腕を掴む。


だったら……!


無理やり前へと移動させられ、アベリアは両脚に肉体強化を発動する。


ここで踏み止まって……ッ!?


足に何かが当たり、足が浮いて上半身が倒れ込む。


足払いだ。



「ふっ……!」



聖人は一呼吸して、左足を外へと振り上げる。


机を思いっ切り叩いたような音がした。


回し蹴りを背中に叩き込まれ、アベリアはうつ伏せで地面に激突する。



「いっ……!」



った……!


強化されている肉体とはいえ、ブーツで蹴られては流石に痛みが響く。



「ふむ……これでは、慎重な以前の方が良かったのではないか?」



稽古した時に比べ、積極的になったと思える。しかし、それが良い方向へと転じたとは言えない。


これまでは恐らく、パーティでの行動を前提とした動きだった。


周囲の邪魔にならないように、ここぞという場面で動く。そういうのを意識した立ち回りだったのだろう。それを克服……個人戦向けに変えようとした結果、このようになっている。



「直情的……うむ。そんな印象を受ける。一体どうしたという?」



「これが……私……なんだから……!」



よろめきながらアベリアは立ち上がる。


アギオスの戦闘スタイルは、相手をいなして崩す……分かっていたけれど、やっぱり相性が悪い。


多分、フィーくんとかジギくんの方が良い勝負を出来る。でも今戦っているのは私。だから私が何とかしないといけない。



「ふむ……そうか……まぁそれも構わん。私としても、その方が幾分かやりやすい。」



一撃……一発でも叩き込められれば私の勝ちだ。


その為には……。


両脚に力を込める。


そして跳躍!



「……!」



アギオスがやっていることは柔術。つまり、人を主な対象とした動きだ。



「つまり、人にはない動き……宙からの攻撃、というわけか。しかし……。」



ある程度引き付けて、聖人は移動する。


翼のない者は、風を操れない者は空中で身体を満足に動かせない。だからこそ、奇策であってもいとも簡単に躱されてしまう。


──だから!


今!ここで!


アベリアは利き腕に魔法を集約させる。


これが聖人から教わった奥儀──!


地面が揺れた。


アベリアの右手が地面を砕き、破片と土煙がフィールドを包み込んだ。



「ぐ……そういうことか。」



アギオスは両腕で顔を覆う。


防げるのは魔法に関連したもののみ。自然に対しては効果がない。



「ッ……!!」



歯を食いしばり、アベリアは絶叫しそうになるのを堪える。


目くらましは成功した。ここで声を上げて位置を教えてしまっては意味がない。



「……。」



聖人は冷静に下がる。


背後を壁にしておけば、前からしか攻撃はこない。


ここで迎え撃つ。



「……。」



土煙の中に人影が映った。


そこだ──!


煙の中からアベリアは飛び出し、右腕を振るう。


アギオスは冷静に手を動かし、それを対処……。


空振った……っ!?


アベリアの拳は聖人の手に触れることなく、ただ空を切った。


次の瞬間、もう片方の拳が聖人の胸へ叩き込まれた。



「があァッ!!!」



聖人ならば初撃を読んでくる。だからこそ、わざと外れる攻撃をし不意を突いた左の一撃を放った。


彼女の身体はすぐ後ろの壁に叩きつけられ、両手足をだらしなく伸ばし、地面に座る体勢となる。



「がっ……あっ……!」



骨にヒビが入ったか。


アギオスは立ち上がろうとするが、上手くいかず前のめりに倒れる。



「……流石……だな…………。」



膝を震わせ、何とか立ち上がる。


限界がきているのは、誰の目にも明らかだ。



「これが……実戦…………ならば……君……の…………勝ちだ…………。」



そして──。


銀の刃がアベリアの身体を深く斬った。

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