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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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190:結果

戦いを見る者たちは呼吸を忘れ舞台に見入り、舞台に立つ二人の荒い吐息だけが静かに響く。


先に呼吸を乱したのはアズフだった。


口から血を吐き出し、背中に刺さったナイフを抜こうと、ぎこちなく腕を動かす。



「ぎッ……!!」



エレジーナは彼女の腕を捻り、抵抗出来ないようにする。



「ハァ……。」



安堵したように息を吐き、自然と忘我状態フローが解除される。


もう限界だ。体力はもうないし、頭も働かない。



「がっ……あ……君……。」



「なに?」



アズフが口から血を垂らしながら何か話しかけてくる。



「…………いいね。」



「えっ?」



次の瞬間──。


真っ黒な手がエレジーナの首をしめていた。



「がぁっ!!」



何が起きたのか理解出来なかった。


どうして……?



「ケホッ……気に入ったよ。負けたかと思ったよ。」



異様に長い腕がアズフの背中へと回り込み、ナイフを乱雑に引き抜いた。


そしてエレジーナの身体を自分の正面に移動させる。



「凄いでしょ?これ?」



自慢するように真っ黒な腕を見せつけてくる。


それは触手のようにしなり蠢いていた。時折泡が浮かぶように表面に膨らみが出来る。



「……思いついたのがコレだったんだぁ。考えてみれば当然だよね?記憶している人物になる……それってつまり、イメージした姿になるってことなんだから。」



フィカスに変化へんげし、武器を生成した時に着想を得た。あの時に失敗したからこそだ。



「つまり、こういう風に、身体の一部だけを変えることも出来るってことだったんだよねぇ。生きてきて気付かなかったよぉ。」



「……ぅ…………。」



本当に魔人だ。人と魔物の境目にいるような存在だ。


不味い……意識が……。


エレジーナは抵抗しようと腕を動かすが、その動きは弱々しい。



「じゃあ……もう終わりにしようかぁ?」



黒い手が刃のように鋭くなった。


それが喉元にピタリと当てられる。



「やめろッ!!」



その時、客席から怒鳴り声がした。


サンナだ。


立ち上がり、アズフに怒声を浴びせる。



「もう勝負はついただろう!?その手を放せ!!」



「……それもそうだね。」



アズフは興味なさげにサンナの方をチラリと見た後、エレジーナを掴む手を放した。


自分の手を元に戻し、エレジーナを見つめる。



「……。」



こんなに強いのに、惜しいなぁ。


まぁいいや。強いのはこの人だからであって、それ以外には何もない。



「エレジーナっ!!」



サンナは観客席から飛び降り、真っ先に駆け寄った。



「あー………サンナ……ちゃん…………?」



視界がぼやけるなー……せっかく……心配してくれて……。


エレジーナはそこで意識をなくした。











「──次の試合、誰が出る?」



宿舎に戻り、フィカスにセプテム、アベリア、ジギタリスは会議を始めた。


サンナとエヌマエル、マカナ、ウルミはエレジーナの看病にあたっている。



「私が出るわ。」



「アベリア?」



アベリアはフィカスの方を見て頷く。



「大丈夫。だからフィーくん、応援してね?」



「……うん。」



──本当に正しい選択……なのかな?


互いに戦力はまだまだ残っている。まだ一度も出ていない戦士もいる。


他にも選択肢はあるんじゃないかな……?



「大丈夫よ、アベリアなら。信じてあげなさい?」



セプテムがフィカスの肩を叩き、アベリアと頷き合う。



「勝ちなさいよ?」



「ええ。任せて。」



それから数時間──。


どうにも落ち着かなくて、フィカスは独り夜風に当たっていた。


玄関に座り、ぼんやりと月を見上げる。


半月が少しへこんでいる形だ。あと二、三日でしっかりとした半月になることだろう。



「おうフィカス!どうしたんだ?」



「ん……ちょっとね。」



ジギタリスだ。


歯を見せて笑い、フィカスの隣に腰を下ろした。



「何か悩みか?」



「そういうわけじゃないんだ。」



別に何か考えていたわけじゃない。


ボーっとしていただけだ。



「……ねぇ、今の僕って、皆に何かしてあげられてるのかな?」



ふと気になってしまった。


セプテムには気にするなと言われたけど、そこのところもやっぱり落ち着かない。


ずっと誰かのために、誰かの役に立つためにって生きてきたから。今、何かをしていないと自分が自分でなくなってしまう気がした。



「……役には立ってねぇかもなぁ。」



少しばかり悩む素振りを見せた後、ジギタリスはそう言った。


そしてこう続ける。



「でも別にいいんじゃねぇか?友達ってのは、仲間ってのは、損得勘定だけでやってくもんじゃねぇだろ?頼ったり甘えたりすることも大切だと思うぜ?」



「そう……なの?」



「そういうもんだ。仲間っていうのは。」



後ろから声がした。



「おうマカナ!エレジーナは?」



「落ち着いてきた。だからこっちに来させてもらった。……流石に女性四人の中に一人ってのは気まずい。」



そう言ってマカナは笑ってみせた。



「一緒にいる理由なんて、最初だけあればいいんじゃないか?俺も今では、エレジーナたちと一緒にいることが、結構良いと思っている。」



何となく雇われて加入したパーティだった。でもエレジーナとウルミと基本三人でいることで、いつしかそれが当たり前のようになっていった。



「だからフィカスも、深く考えなくていい。悩むなら、今回の件が片付いた後、考えればいい。」



「──うん。」



マカナはフィカスの瞳を見つめる。


やはりまだ……人らしさがないな。


サンナから軽く聞いたが、この間まで異常な環境にいたらしい。それならば仕方ない。だからこれからを、未来をしっかりと正常に、明るいものにしてやらないといけない。



「……ルール上、俺はもう出られない。でも冒険者同盟パーティの一員だ。出来る限りサポートしていく。だから明日から……勝つぞ。」



拳を前に出す。


そして三人は拳を合した。

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