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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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189:変化

さて……これってどうなんだ?


ネモフィラの姿となった魔人は首を傾げた。


毒の効力が薄まってきた時点で病魔から切り替え、炎魔法で移動することなく攻撃することを選択した。これ自体は相手の意表を突いたものであると思うが……。


なにせまともに魔法で攻撃した経験がないため、炎が命中しているのか、この火力がどれほどのものなのか、そのあたりがよく分からない。


まぁ……これを受けて……。


劫火の中から黒い影が飛び出した。


やられるわけがないか……。



「ふぅ……!」



魔人はネモフィラからサンナへと変化へんげし、金色の翼で宙を舞い武器の落ちている地点へと降り立つ。



「……。」



マントを脱ぎ捨てナイフを一本持った状態で、エレジーナは魔人を追う。


魔人は短剣を拾い上げ、サンナの姿のまま応戦する。



「……ッ!?」



──速い!


互いの刃が触れ合い、弾き合う……その次の瞬間、エレジーナは懐へと飛び込んでいた。


魔人の右腕を掴み、身体を引き寄せるようにして腹にナイフを突き刺す。



「がっ……はっ……!」



ナイフを引き抜くと腕をそのまま外へと引っ張っていき、回し蹴りを背中に叩き込む。



「ぐっ……舐めるなァッ!」



魔人サンナは叫び、鱗で覆われた蜥蜴トカゲの姿となった。



「……。」



守りを優先したか。あの鱗で覆われた身体にナイフで傷をつけることは難しい。別の姿になるのを待つか?いや、その必要もない。


一瞬のうちに思考し、エレジーナはそのまま前進する。


振り下ろされた爪を避け、小さな跳躍で振り回された尻尾を躱し、関節にナイフを突き刺す。


蜥蜴は竜のような咆哮を上げ、その身体が砂のように崩れ始めた。


今度はまた、ネモフィラの姿だ。



「喰らえッ!」



「……。」



劫火が放たれるが、重心を低くし脇をすり抜けて接近する。



「くっ……!」



接近を許した魔人ネモフィラは炎を放つのを止めると、短剣で迎え撃つ態勢をとる。


再び両者の刃がぶつかり合う。


ここでエレジーナはナイフを小さく左右に振動させ、魔人の掌を揺さぶった。そして振動により指の力が弱くなった瞬間に揺さぶりを大きくし、短剣を掌から弾き飛ばした。



「ぐぅっ……!」



その隙に二回、魔人の身体に斬りつけた。


三発目を入れようとして、すぐさま飛び退く。


直後、地面に向けて放たれた炎が爆発を起こした。そのまま攻撃を続行していれば、炎に身を燃やされていたことだろう。



「──いや~……やるねぇ。想像以上の実力だよ。」



炎が収まると、そこには”魔人”アズフが立っていた。


負った傷はそのままだが、痛みを感じる素振りはない。



「……さっきまでの、演技だったのか?」



エレジーナは低い声でそう問いかけた。



「演技……か。そうとも言えるかな。」



魔人は刀を拾い上げる。



「私の魔法センスはね、全部演技なんだよ。別人の姿になって、その別人を演じる。別に演じる必要なんて……そっくりそのままである必要なんてないんだけどね。けどまぁ……そういうことをしている時の方が、落ち着くんだ。生きているって実感出来るから。」



色々な存在に変化していくうちに、自分というものが分からなくなってきた。


元々自分はどういう存在だったのか?そもそも本当にこの姿をしているのか?そもそもヒトであるのか?


何もかもが分からなくなった。


その点、他人になるというのは良い。



「その人になりきるって決まってるからね。やることが。だから戦う時も、その人ならこうする……こう喋るっていうのを組み込んでいるんだぁ。」



相変わらず真顔だが、口元だけは嬉しそうに歪む。



「だからさっきまでのも、組み込まれた演技なんだぁ。本当に痛かったし、辛くもあったんだよ?それで……今度はこっちの質問、いいかな?」



アズフの指がエレジーナを差す。



「今の君ってさ……もしかして……?」



「……予想通りだよ。」



エレジーナはアズフを睨み付ける。


この状態だと、あまり余計なことをしたくない。集中が濁ってしまうから。


極限まで集中した状態──。


──忘我状態フローだ。



「そっかぁ……それじゃあ、そろそろ決着といこうかなぁ?」



魔人から動いた。


ゆらりと陽炎のように揺れ、風のように素早く肉迫する。


刀が湾曲しているかのように見えるスピードで攻撃され、それをナイフで受け止め弾きながらエレジーナは後退る。


──隙がない……!


忘我状態フローの速さと互角。攻め切れない……どころか、押され気味だ。


……このままだと……勝てないな……。


まぁ……やっぱりかって気もする。以前、勇者と戦った時だって勝てなかったわけだし、それと同格の英雄に勝つだなんて、夢物語だったんだよね。


むしろここまでよくやったって感じだよ。


だから諦めて……。



「……。」



いいわけがないか。


エレジーナは無意識のうちに笑った。


──認めよう。


暗殺者わたしの負けだ。私じゃ勝てない。


だから──!



「ぐっ……おおおぉぉっ!!」



刀を横へと弾き、背中に力を込める。



「……!?」



そこにいる誰もが驚いた。


彼女の背中から、焦げ茶色の翼が生えた。片方は酷い傷で原形を留めていないほど荒れている。



「がぅ……ッ!」



痛いなーやっぱり……!


目の端に涙をため、エレジーナはその翼で飛んだ。


──私の時間は、あの時に……この翼を失った時に止まった。


その時から暗殺者アサシンとして無感情に生き続けた。


でも……。


サンナちゃんと再会して、一号ちゃんと再会して。


皆と触れ合って。


少しずつ……私の中で変わり始めた。



「ぅ……あああああぁぁッッ!!!」



アズフの頭上を飛び越え、無防備な背後へ着陸する。


──そして今、私の止まっていた時間が動き始めた。


ナイフが魔人の背中に深く突き刺さった。

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