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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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186:下準備

戦闘服は動きやすさを優先。身体にピッチリとしたものを選び、その上に細身のマントを纏う。そして出来るだけ多く──それでいて重さが気にならないように気を付けて──暗器や道具を仕込んでおく。



「……。」



姿見で己の格好を見て、エレジーナは顎を摘まむ。


こうやって明るい部屋で見ると、真っ黒で変な格好だなー。


手首を動かし、違和感がないか確かめる。


──うん。問題ないかな。


窮屈さは感じない。これならどれだけ動いても平気だろう。


これで準備は万端……。



「……。」



姿見に移る自分の顔を見る。


……やっぱり、最後の仕上げをやっておこう。要らない気もするけど。



「エレジーナ、そろそろ時間です。」



ドアの外からくぐもった声がした。



「はいはーい。」



私はいつも通りの返事をし、灯りを消して部屋を出る。



「準備、大丈夫すか?」



「大丈夫だよー。ほら、行こうか。」



ドアの前に立っていたマカナくんの肩を叩き、歩くよう促す。



「……緊張、してますか?」



「緊張はないかなー?よく分からないや。」



「まっ、そうっすよね。」



ありゃりゃー酷いなぁマカナくんは。


でもまぁ、私という天使ヒトをよく理解しているから……ってことにしておこう。


ゆっくりと階段を下りていく。


皆はもう、外で待っているのだろう。



「うーん……先に言っておくね。マカナくん。」



「何をですか?」



彼は物珍しげに私の方を見てきた。


そんなに私が前置きして話すのが珍しい……珍しいか。


自分で自分にツッコミを入れた。


いつも思いつくままに喋っちゃうからね。きちんと整理して話すなんてこと、ほとんどしてこなかったかもしれない。


で……何を言いたかったかと言うと……。



「負けたらごめん。って先に言っておくねー。」



「……らしくないですね。」



いつもクールな彼がすこしばかり動揺した表情を見せた。


らしくない……ね。


そうかもしれない。でもやっぱり、負けるかもって考えが心のどこかにあった。とは言っても、相手が英雄の誰かならって話なんだけど。



「まぁ……やるだけやるよー。」



玄関の扉を開け、待っていた皆の元へ行く。


それから闘技場への道中──。


皆が色々話しかけてくれたけど、あんまり耳に入ってこなかった。



「……エレジーナ。」



闘技場に到着し、舞台へと繋がる通路に足を運びかけた時、サンナちゃんが私の腕を掴んできた。



「……その…………頑張ってください。」



「……。任せといてねー。カッコイイお姉ちゃんを見せてあげるよー。」



茶化すつもりでそう言ったが、サンナちゃんはいつもより優しい顔で頷いた。


……。



「──頑張るよ。」



それだけ言って、彼女の頭をポンと叩き、私は通路を進み出した。


肩を軽く回し、両手をブラブラと振る。


──これだけしっかりと準備するのは、一体いつぶりだっただろうか?


いつもの時は、いつもの仕事でいつもの装備……。いつの間にか、準備なんてものはしなくなっていた。


さてさて、これで相手が予想を外した存在だったら、拍子抜けもいいところだけど……。



「あ、来たね。今回は、私の方が早かったね。」



「じゃあこれで、あいこだねー。」



舞台で先に待っていた人物は──。


三英雄の中で、唯一面識のある人物──。


”魔人”アズフだ。


やりやすい相手ではない。


けれど三英雄の誰かを選べと言われたら、魔人を選ぶことだろう。賢者と聖人の情報は少なく、戦いにくさがある。


それに比べれば、魔人は幾分か戦いやすい方だろう。



「そういえばさ、魔女……だっけ?あの子、凄かったね。」



アズフは虚空を見つめ、独り言のように語りだした。



「怪力の女の子も凄かったよ。男の子はまぁ……あんまり魅力的じゃなかったかなぁ。」



魔人はそのまま首を傾ける。



「やっぱり、魅力的だと真似してみたくなっちゃうよね。それでさ、君の真似もしてみたいなって思うんだけど、今回は本気で戦ってくれるのかな?」



「…………うん。本気で戦うから、安心してねー。」



どう答えようか悩んだ。


悩んだうえで、素直に答えた。彼女には駆け引きは有効ではない。



「わぁーそれは嬉しいな。やっぱり、凄いものっていくら見ても見足りないっていうか、いくらでも見ていられるっていうか、不思議な魅力があるよね?」



「……。」



こうも無邪気さが伝わってこない喋り方があるだろうか?


同じ台詞をアベリアちゃんなんかが言ったら、とっても可愛いって思えるだろうに。



「君にもそんな魅力的な存在であってほしいと思うんだ。だから──。」



こちらの反応を無視して、魔人の話し続ける。



「本当、頑張ってね?賢者くんと戦ったりしてみたかったんだけど、断られちゃってさ。こうやって出番がくるまで暇だったんだ。だからさ、えーっとね……。」



魔人は腰に差してある鞘に手をかけた。


いよいよか──。


私もナイフの柄に手をかける。



「それでは”魔人”アズフ対エレジーナ戦……始め!」



ノウェム姫の掛け声がした。


それと同時に魔人の鞘から刀が引き抜かれる。



「楽しい勝負になると、嬉しいなぁ?」

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