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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
188/222

184:誕生

──多分、こっちのが本当の私だ。


セプテムは氷魔法をネモフィラに向けて放ち、それと同時に彼の背後へと土魔法を発動し、隆起した地面の壁で逃げ道を塞ぐ。



「ぐっ……!」



必死な形相で炎を放つネモフィラを冷静な──冷めた目で観察する。


仲間というものを得て、年相応の”らしさ”というものを知った。けれど、本性はこっちだ。


考えてみれば、当たり前のことだった。


親の顔は知らない。親切な人に拾われ、生き延びることは出来た。そこで貧乏というものと格差というものを知った。


幼い頃から現実を知り、自分の境遇も知った。それ故に高い精神年齢と理不尽な世の中への憎しみという感情を持ってしまった。



「ほら……もっと足掻きなさいよ。」



風で地面ごと抉り、巨大な竜巻を発生させる。そこに氷の刃を投入し、捕らえた得物の身体を切り刻んでいく。


自分が複数の魔法を使えることに気付いたのは、一体いつ頃だっただろうか?


はっきりと覚えていないほど昔のことであるのは間違いない。己の記憶にあるのは、既にそれを知り実験をする姿だったからだ。



「ぐっ……本当に……魔女と呼ぶに……相応しいな……!」



竜巻が爆発し、劫火が蛇のように伸びてきた。



「魔女ね……たしかに、私にぴったりかもしれないわね。」



土で防ぐのは愚策。自らの視界を奪うことになる。


氷や水をぶつけて爆発させるのも良くない。


なら炎で相殺する……。



「……っ?」



炎の感触が違う。先ほどまでよりも軽い。これは──。


フェイクか──!


だらんと垂らしていた腕を持ち上げ、短刀を構える。


直後、劫火の陰からネモフィラが飛び出してきた。



「喰らえッ!」



鉄杖が振り下ろされる。


短刀で受け止めるのは無謀だ。


それなら避けるのが当然の行動だ。



「……だろうな。」



そこまでは想定内。


鉄杖は勢いを止めずに地面を叩いた。


次の瞬間、周囲の地面から炎が噴き出した。



「ッ……!」



セプテムは足を止め、周囲を見渡す。


逃げ道は……ない……!?


先ほどの炎は目隠しだけでなく、ここで連鎖させる為のものだったのか。



「ふん……ようやく涼しい顔が崩れたな。」



「……そうね。」



この戦術に普通なら、常人なら、まず対応出来ないだろう。



「……やっぱり、一対一だと盛り上がらないわね……この程度だと。」



そう呟くとセプテムは、炎と風を同時に放出した。


自分の炎を相手の炎に絡ませ、風でまとめて動かす。


ネモフィラの炎だけなら激しく抵抗されるが、二人の炎を混ぜたならそこまで抵抗出来ない。半分はセプテムのものだからだ。



「──見せてやるわ。あんたの言う……魔女の力ってやつをね!」



太く巨大な炎の蛇を這わせ、舞台の縁を抉っていく。


そうして出来た溝に水で作られた壁を張る。


これで闘技場の舞台は水で覆われた。



「何を……?」



セプテムは風魔法で宙に飛び上がると、自分の身体をも水で覆った。



「安心しなさい。死なない程度の威力に調整することは得意よ。」



そう言うと雷魔法を舞台全体へと放った。


雷は水に当たり、地面に当たり、そこにある全てに襲いかかった。


凄まじい叫び声が響き渡った。


舞台全体がまばゆく輝いた。



「そ、そこまでよ!!中断して!!」



慌てたノウェムの声がした。



「言われなくても、そのつもりよ。」



セプテムが指を鳴らすと雷が消え去った。



「威力はかなり抑えたんだから、平気よね?」



「……ぐ……っ…………ぅ…………。」



ネモフィラは地面に伏し、動かない。



「……ん?何よ?」



セプテムは屈み、ネモフィラの口元に耳を近づけた。



「どれが…………お前……なんだ…………?」



「……全部よ。全部が私。」



これまでのも……これからのも。


本気になれば冷めた態度にもなる。日常では口が悪くて、それでいて面倒見は良くて──。



「──だからまぁ……あんたの考えるようには、ならないはずよ。」



戦っている時の自分が、生き生きとしているのは知っている。


それが生きる意味だと思っていたからだ。


それが本性であり、素顔と言えるだろう。


でも……。


ふざけたり、ちょっとしたことで喧嘩したり、誰かのことを優先したりして……。


そういうのも、何だか悪くない気はしている。



「だから……。」



これからは──。


これまでの自分とは違う、新しい自分になっていっても良いと思っている。



「後は任せなさい。」



これは、過去の自分に向けた言葉でもあった。


これでようやく、怪盗シャドウは……周囲を敵視するセプテムはいなくなった。



「…ああ…………。」



ネモフィラは顔を落とした。気絶したのだろう。


セプテムは燕尾服に付いた砂ぼこりを払うと、短刀を鞘へと戻し舞台から出て皆の元へと向かう。



「お待たせ。」



これからは新しい自分──。


彼らの仲間であり冒険者である──。


”魔女”セプテムだ。

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