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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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180:奥儀

──負けたくない。


戦いの最中、浮かんできた思いは、ただそれだけだった。


妹のことを思って負けるべき、そう考えていた。実際、そうするのが正しいはずだ。


それでも、負けたくない。そう思ってしまった。


アモローザは水の塊を右手で持ち上げ、投げつけるモーションに入る。


これが当たれば、相手の骨くらいなら折ることが可能だろう。己の持てる魔力を注ぎ込んだ、全力の一撃だ。



「これで──!」



負けたくないと思ったのは、一体どうしてだろうか?


姉としてのプライドか、アモローザという人間が持つプライドか、はたまた……相手がアベリアだからか。答えは出ない。きっと出す必要もない。


こういう気持ちに、感情に理由なんていらない。



「──決める!」



アベリアもまた、同じ考えに至っていた。


しかしそれは感情や気持ちの話ではなく、勝負自体における話だ。


ここで退いてはダメだ。ここで決めないといけない。


直感に近い何かが自分アベリアにそう告げた。アモローザの様子からして、なんていうのは後付けともいえる考察だ。そう考える前に、ここが勝負所だと判断していた。


右足を大きく踏み込ませ、勢いをつけるために右腕を大きく引く。



”──そうだな。貴方が強くなる方法があるとすれば……。”



南大陸にて──。


アベリアはフィカスを捜す合間に”聖人”アギオスから戦い方を教わっていた。



「アベリアは既に、身体は完成していると言っても良いだろう。ならば、必殺技……では物騒だな。うむ……奥儀……うむ。奥儀だ。そう呼べる技を習得すべきだ。」



「奥儀?でも……どうすればいいの?」



アギオスはアベリアの身体のあちこちを撫でる。



「うむ。筋肉は全身にバランスよく付いている。肉体強化魔法の使い方も理解している。常に全身にある程度魔法を発動するようにしているのだろう?」



「え……?うん。」



彼女が何を言いたいのか。


アベリアはそれが分からず、困惑しながら頷いた。



「つまりは、それだ。もし私が貴方なら、それを覆す……その前提を覆す。それが一番有効的であり、意表を突けるだろう。」



「……!」



絶対に!ここで使うべき!


アベリアは右腕に力を──強化魔法を集中的に込める。



”──ただし反動も相当なものとなるだろう。使い所はしっかりと見極めるように。”



姉さんは……いいえ、きっと私を知る全ての人たちが私の力は、速さは、これであると思っている。悪い言い方をすれば、決めつけている。


だから──!



「うおおおおォォォッッ!!!!!」



腹の底から力の限り叫び、全力の拳を突き出した。



「なッ!?あッ!?があああァァッ!!」



真っ向から水の塊を粉砕し、そのまま握りしめた右手は姉さんの腹に打ち込まれ、吹っ飛ばした。



「うっ……ぐううううぅぅぅっっ!!」



アベリアは激痛に涙を流し、右腕を押さえてしゃがみ込んだ。


思っていたよりもずっと痛い……!


反動がここまでのものとは。たしかにこれは、奥儀と呼ぶべきものだ。一度でも撃てば、痛みで戦いどころではない。


それでも、撃った成果は充分に挙げられた。



「……しょ……勝者……冒険者同盟……アベリア……。」



ノウェム姫のたどたどしいアナウンスが響いた。


未だ痛みに震える右腕を天へと突き上げる。


常に全身に発動していた肉体強化魔法を攻撃する一点──右腕にだけ集中的に発動する。これがアギオスとともに私が見つけた──切り札だ。



「姉さん!大丈夫!?」



戦いが終わった。


そう理解した瞬間、身体中を走っていた緊張感が解け、慌てて姉さんに駆け寄った。


勝負だから、と深く考えていなかったが、よくよく考えてみれば人に向けて撃つには危険すぎる奥儀だ。感触にはそこまで嫌な感じは伝わってこなかったが、安全は保証できない。



「……っ……強くなった……わね……。」



腹部を押さえ、姉さんは壁に寄りかかった状態で掠れた声を出した。



「姉さん……。」



姉さんは空いている片腕を私の方へと伸ばしてきた。そして首を横に振った。



「いえ……強かったのよ……ね?私が知らない……だけで……ずっと前から……。」



「……うん!だからもう……昔の私じゃないんだよ?」



また涙が溢れてきた。


今度は痛みからではない。


嬉しかったんだ。姉さんに認められて。



「だから姉さん……私に任せて?」



私の言葉を聞いて、姉さんは驚いた顔を見せた。


そして優しく微笑んだ。



「ええ……頑張りなさい…………。」



そう言って目を瞑り、顔が下を向いた。



「姉さん!」



「大丈夫。気を失っただけよ。」



いつの間にか、ノウェム姫が隣に来ていた。



「衛生兵がすぐに治療してくれるから。貴方は先に戻ってなさい?」



「──はい。」



ここは姫様に任せよう。


姉さんと色々話したいこともある。


でも今は他にもしたいことが、喋りたいことが色々あって──。


だから今は、気の赴くままにしよう。


通路を歩き外に出ると、皆の姿が見えてきた。


段々と駆け足になっていく。



「──ただいま。私……勝てたよ。」

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