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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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179:喧嘩

濡れた顔と髪を手で拭い、アベリアは疲れを振り払うように顔を横に振った。


──姉さんは私の動きを読める。でも……。


それはあくまで、少し前までの動きの話。私が南大陸に行ってからのことは知らないはず。


アギオスが話したという可能性もなくはないが、彼女の性格的に訊かれない限り喋ることはないはず。そして姉さんは私が南大陸に行ったこと自体知らないはずだ。


全部憶測になってしまうが、きっと知らない。それが結論だ。


それならば、アギオスに鍛えてもらった成果を発揮すれば……勝てる。



「姉さん、ここからが……勝負だから!」



一気に突っ込む。


そうしたら姉さんは必ず、水の膜で防いでくる。


──当たり。


安定行動を採るなら、そうするのが一番だ。


だから私は両脚に急ブレーキをかけ、素早く方向転換する。直角に右に曲がり、警戒の薄い──つまり幕の薄い端の方に拳を叩きこむ。



「……。」



姉さんは無言で左手をこちらに向けた。魔法を放つ体勢だ。


だから……。



「それッ!」



腰を落とし、両脚を深く曲げ、宙へと跳び出す。


空中で力を込めた一撃を放つことは難しい。何故なら、力の反動を受け止めてくれるものが何もないためだ。だから普通は、体勢を整えてから宙へ跳ぶ。


でも今、私はそうではない。姉さんの目には、ただ躱すためだけに跳んだように見えることだろう。



「……油断なんて、しないわよ?」



水のドームが姉さんを包んだ。


これは想定内。だからこれを壊してからが勝負!



「フッ!」



利き腕じゃダメだ。追撃が難しい。


左腕を振って衝撃波でドームを破壊する。バランスを崩さないように、突き出した後、素早く引く──。



「そりゃッ!」



水のドームの破壊に成功。そのまま水飛沫の中へと落ちていき、両脚で着地する。この時に素早く小さくジャンプする。


ラフマに教えてもらった技術だ。小さくジャンプすることで、次の動作に入りやすくなるそうだ。


このジャンプで着地の衝撃を流すとともに、二回目の着地の勢いをそのまま移動の勢いに変える。



「だからッ!読めてるのよ!貴方の考えることなんてッ!」



アモローザはヒステリックな怒鳴り声を上げ、アベリアに向けて手を伸ばした。



「うぐっ!」



髪を乱暴に掴み、グイと身体を引き寄せる。そして脇腹に手を当てた。



「ぐがッ!!」



腹に水の塊をぶつけられ、アベリアの身体が吹っ飛んだ。受け身を取れず、地面を何度も転がる。



「……。」



今の……水の弾丸……ってとこかしら?


セプテムはアモローザを客席から見つめる。


水は範囲を絞ることで岩のような威力を持つが、彼女もそれを知っていた?日常において必要のない技術であるはずだけど……。


そういうトコは、やっぱり似ているかもしれない。



「アベリア……。」



隣でフィカスが心配そうな声を出した。



「──大丈夫よ。」



私は彼の肩を叩く。



「あの子は強い。それはあんたも知ってるでしょ?」



のんびりしているようで、意外と冷静で観察眼を持っている。相手との力量差を測れない彼女ではない。そんな彼女が諦めずに戦っている。


つまりは、そういうことだ。



「どうしたのリア!?貴方の実力はそんなものなのッ!?」



アベリアは拳で地面を叩く。



「そんな……わけ……ないッ!!」



痛みをこらえ、私は身体を起こす。


よろめきながら立ち上がり、姉さんを睨み付ける。


今の一撃で、目が覚めた。


──姉さんが相手だから、しっかり戦わないと。


そう考えていた。それが間違いだった。


戦いって考えてしまったことで、姉さんの動きがかえって分かり辛くなってしまった。もっと単純に見れば、考えればよかったのに。



「私はまだ……戦える。」



姉さんはニヤリと笑った。



「そう……それでこそ、私の妹よ。」



「うん。だから姉さん……喧嘩、しよ?」



全身に力を込め、三度私は突進する。



「同じ手は通用しないわよ?」



また水の幕が張られる。


でも……もう関係ない。


連続でパンチを繰り出し、水を破る。


何度でも。幾らでも。



「……ッ!このッ……!」



アモローザは苛立った声とともに、水の塊を生成する。



「ぐぅっ……このッ……!」



水の威力に怯むが、すぐに拳を繰り出す。


そう。これは喧嘩だ。戦略とか何もない。ただ感情のままに拳を繰り出すだけの。


雑な戦いに……人によっては、やけくそに見えるかもしれない。けれど、姉さんを相手にするなら、これが一番効果的だ。


姉さんとは喧嘩をしたことがない。いつも私が弱気になって、圧倒されて、それで終わっていた。


だからこそ、姉さんは喧嘩をしたことがない。何も戦略のない、ただの暴力を体感したことも見たこともない。



「ッ……いいじゃない、アベリア!でも私だって……!」



「……!」



多分、ここだ──!


姉さんは腕を振り上げ、巨大な水を創った。


感情が高まっている。私の名前をあだ名ではなく、本名で呼んだことがその証拠だ。


何度もパンチを受け、精神的にも肉体的にもダメージが蓄積している。


私にも同じくらいダメージを与えているのに、そのことを考えられないくらいに。


だから──!



「──これで決める!」



姉妹の声が重なった。

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