表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
182/222

178:対・水

出場しなければ、フロス庭園に対し国から圧力を掛ける。


国王からのメッセージは実にシンプルであった。


自分の庭園しろを守りたいという気持ちは当然ながらある。フィカスという少年は妹を変えた存在であり、将来性にも期待が出来る。


二律背反に私は悩まされた。悩んだ末、敵対することを決めた。


国に逆らえるだけの度胸と力を私は持ち合わせていない。それでも、何とか穏便に済ませられる方法を模索した。



「さぁ……リア。本気でかかってきなさい?」



その結論がこれだ。


国に協力する立場となり、全力で戦い、そして敗れる。


演技では駄目だ。本気で戦う必要がある。その上で負ける。それなら誰も文句は言えないことだろう。


更に運の良いことに相手は妹のアベリア。


これなら妹がどこまで本気なのか、彼に対しどのように思っているのか、己の目的を果たしつつ調べることが可能だ。



「姉さん……分かった。」



挑発してくる姉を前にして、私は構える。


両足を広げ、拳を握り胸の辺りまで挙げる。



「私はもう……姉さんの言いなりになるだけじゃない!それをここで……証明するわ!」



生まれて初めて……実姉に啖呵を切った。


肉体強化魔法を全身にかけ、両足に力を込める。



「……!」



地面を勢いよく蹴り、一気に間合いを詰める。


常人には目で追えないほどのスピード。戦い慣れている冒険者ならまだしも、庭園で働くだけの姉に対応出来る速さではない。


……はずだ。



「きゃあっ!?」



下から突き上げられる水流に身体を打たれ、アベリアは悲鳴とともに地面を転がった。


受け身を取ったことでダメージは抑えられた。


でもどうして……?



「そんなに不思議なことでもないでしょう?」



アモローザの周囲を水で作られた竜巻が幾つも蠢く。



「何年貴方も姉をしていると思っているの?貴方がどう考えてどう動くか、なんて丸分かりよ?」



「……。」



姉さんは私のことなんてどうでもいいと、勝手に思っていた。


けれど、そういうことではなかったようだ。いつも高圧的で人を身分や仕事で判断するような節があって、薔薇のように美しさと棘があって……。


それでも、この人(アモローザ)は私の姉さんなんだ。



「──それでも、私は姉さんを超えてみせるわ。」



立ち上がり、私はそう宣言した。


右手を開き、また握る。


それを何回か繰り返す。


──うん。平気。


違和感はない。これならいつもよりも強くしても大丈夫だろう。



「ふぅ……。」



息を吐き、目を閉じる。右の拳を強く握る。腰を落とし、ゆっくりと右腕を引く。そして──。


掛け声とともに強く突き出した。



「なぁっ!?」



水の竜巻が風圧に煽られ掻き消え、アモローザは初めてクールな表情を崩した。



「あれは……!」



スタンド席で見ていたセプテムは言葉を漏らした。


怪盗シャドウとして活動していた頃。アベリアと対峙した時に見せた技だ。強化された拳を振るい、その衝撃波と風圧で魔法をも掻き消す。


この場面において有効な一手だ。


にしても……。



「容赦ないわね……。」



アベリアの技に驚嘆したアモローザだったが、すぐに平静さを取り戻した。


目の前に分厚い水のカーテンを張り、アベリアの追撃を抑止する。



「むぅ……。」



駆け出しながらアベリアは思考する。


どうする?あれも壊す?いえ……。


ここは退くべき!


そう判断し、飛び退いた直後、先ほどまでいた位置に水の塊が降ってきた。



「あら?良い判断じゃない?」



ただの水と侮るなかれ。分厚くなれば、水は鈍器のようにもなる。一メートルもあれば人を殺すには充分な津波となる。


巨大な水飛沫を上げ、それは破裂した。シャワーのように降りかかってくる。



「姉さんが考えることくらい、私にも少しは分かるの。だから……むぐっ!?」



「でもリア?油断し過ぎじゃないかしら?」



巻き起こった水飛沫が襲いかかってきた。


顔に張り付き、アベリアはそれを剥がそうともがく。


──不味い。苦しい。


当然ながら、水を掴むことは出来ない。このままでは息が出来ない。水魔法の応用力を考えていなかった。判断ミスだ。


このままじゃ……。


どうする?高速で動いて、水を振り払う?


それじゃダメ。すぐに同じことをやられてしまう。これを脱しつつ、もう同じ手は使えないと思わせる手段を……。


苦しくなってきた。もう息がもたない。早く決断を……どうすれば……。


ダメ……何も思いつかない……私じゃ……。


──なら。皆なら?こういう時、どうする?どう動く?


……きっと。


空気がなくなり、苦しさとともに意識が薄れていく中、全身に力を込める。


これじゃきっと、解決にはならない。それでも……。


バネで弾いたように跳び出した。


腕を振る余力はない。そのまま姉さんに体当たりした。



「ぐっ……ふぅっ……!」



もろに喰らったアモローザはよろめき、魔法の制御を失った。



「ぷはぁっ!……はぁ……はぁ……。」



顔に張り付いた水から解放され、アベリアは荒い呼吸を繰り返す。酸素を求めて自然と顔が上を向く。


思った通り。姉さんはあくまで一般人。冒険者じゃない。


だから戦闘による痛みに、衝撃に慣れていない。相手が熟練の魔法使いであったなら、同じことをしても解放されなかったことだろう。



「……随分と荒い、雑な解決策じゃない。」



「……でも姉さん。獣みたいにこうやって攻撃されるの、嫌でしょ?」



「……まぁ……そうね。」



何はともあれ、これで結果オーライだ。


そして今の口ぶりからして、同じ手は使ってこない。


これでようやく、スタートラインだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ