177:二戦目
「おっ!目が覚めたな!」
気が付くと、天井を見上げた体勢になっており、ジギタリスとエレジーナが覗き込むようにこちらを見ていた。
マカナは上半身をベッドから起こし、額に手を当てる。
──何があったんだ?……そうだ。
あっさりと負けたのか。色々と考えて、決意して……結局、良いところなしで負けた。
「あー……契約違反……ですかね?」
「うーん……そうなるかなー。」
肩を回してみる。
軽い。ジギタリスの回復魔法のおかげか。
「まぁいいんだけどね。マカナくんはいつもしれっと仕事をこなしちゃうから、たまには失敗しないとねー。」
「なんすか?それ?」
相変わらず変なことを言う人だ。
でも、逆にそれが落ち着く。少なくとも、敗北のショックを引きずることはないだろう。
「とりあえず、後は任せなさいってこと。」
「……明日?は誰が出るんですか?」
「アベリアよ。」
隅に立ち腕を組んでいたセプテムが近づいてきた。
「まぁもうすぐ今日の話になるけど。」
つまり、もうすぐ日付が変わるということか。倒れていた時間は数時間か。
部屋に他の奴はいない。既に休んでいるのだろう。
「どうしてアベリアに?」
理由を聞いたところで何かあるわけじゃないが、一応は知っておきたい。
「おう!ジャンケンで決まったんだぜ!」
「は?」
ジギタリスが自信満々にそう答えたが、意味が分からない。
「英雄が連続で出てくることはないって判断よ。」
「確実に勝つためにセプテムちゃんかアベリアちゃんが出るって話になってねー。決まらなかったから、ジャンケンに勝った方が出るってことになったんだよー。」
英雄以外を相手に確実に勝つために、大将を除いた最高戦力を出すってわけか。この二人ならば、大体どんな奴相手にも勝てるだろう。
「でも、連続でくるって可能性は捨てきれないんじゃないんすか?」
「その線は考えないってことだよ。」
「なるほど……。」
こちらが勝ち星を取りにくることは、相手側としても分かりやすい。だが色々な可能性を一々想定していたら、消極的になり勝てない。
希望的観測に頼ることも必要だ。
「さっ明日は応援だよ。休もうかー。」
「……はい。」
さっきまで寝てたわけだから、正直また寝られるとは思えないが。
翌日──。
「──ねぇフィーくん。」
日没が近づいてきた頃、アベリアがフィカスに声をかけた。
「ん?なに?」
やっぱり、試合の前だから緊張しているのかな?
昨日、マカナは倒れて気絶したわけだし、勝負に対する重圧は相当なもののはずだ。
「セッちゃんとムーちゃん。どっちがいいと思う?」
「……えっと、セプテムのこと?」
「うん。前々から考えてたんだけど、どっちがいいかしら?」
予想外の質問がきた。
たしかに、僕とサンナとジギタリスはあだ名で呼ばれているわけだし、同じ仲間であるセプテムにも似たような呼び方があってもいいよね。
で、どっちがいいかって言われても……。
「……ムーちゃん……かな……?」
何となく、そっちが良いと思った。
「うん!やっぱりそっちがいいよね!ありがとう!すっきりしたわ。」
「あ、うん……なら良かったよ。」
悩んでいる様子だったけど、試合前で緊張してたとか、そういうわけではなかったようだ。
まぁ緊張しているよりはいいことかな?今悩む話かって言われたら、違うような気もするけど。
「それじゃフィーくん……私、勝つから!」
再び闘技場へ。
昨日と同じくここは静寂に包まれている。
「──それでは、両選手の入場です。」
通路の先にある舞台の方から、ノウェム姫のアナウンスが聞こえてくる。
──大丈夫。緊張していない。
私は拳を握り、力を放した。息を長く吸い、長く吐く。
「──うん。」
大丈夫。
自分にそう言い聞かせる。
不安はある。
──大丈夫。
皆のためにも、彼のためにも……勝つ。絶対に。
「冒険者同盟──アベリア。」
私の名前が呼ばれ、ゆっくりと通路を進む。
魔法で照らされた舞台に立ち、真っ直ぐ正面を見る。
上側を見れば誰が相手になるのか分かるけど、そうしたって仕方がない。すぐに相手も来るのだから。
「続いて国際連合──アモローザ。」
「……!」
その名前を聞いて、思わず目を見開いた。
敵対する関係となった以上、いつか戦う時がくるかもと、心のどこかで思っていた。けれど……。
「思ったよりも、早い対決となったわね。リア。」
「……うん。ローザ姉さん。」
まさかいきなり実姉と戦う日がくることになるとは。
自分なりに過去を清算した気でいたが、こうして対面すると嫌な緊張感が身体と心を支配する。
…………。
本当に姉さんと戦えるの……?
「あら?リア、貴方……困ったものね。」
姉さんはため息を吐いた。
「いい?私はフロス庭園のために戦う。貴方はどうして戦うの?」
私が戦う理由?ここに立つ理由?
……そんなもの、決まっている。
「ふふっ。良い目になったわね。それじゃあ……始めましょうか。」