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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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176:初戦

賢者の魔法センスは物質操作──。


それに対する明確な回答は思いつかない。ならば、自分にとっての最適解を押し付けるしかない。



「ふっ!」



開戦の合図と同時にマカナは小瓶をドゥーフに向けて──正確に言えば、ドゥーフの足元に向けて投げつけた。


それとほぼ同時にブーメランをベルトから引き抜き、顔面を目がけて投げつけた。



「……チッ!」



魔法の条件は、物質に対し意識を向けること。


セプテムから聞いた話だ。それが事実であるならば、同時に意識を向けることが難しい状況を作ってやればいい。


足元に向かって飛んでくる小瓶も気になるだろうが、眼前へと迫りくる武器の方へどうしても注意が向くはず。この二択ならば、反射的にブーメランを優先してしまう。



「……くだらねぇ手ぇ使いやがって。」



──常人ならば。


賢者の採った行動は、マカナの想定していた二択のどちらでもなかった。


彼の足元から地面がせり出し、両方を岩壁で防いだ。



「くっ……。」



思わず呻く。


どういう神経してんだ?


目の前にあるプレッシャーを無視し、地面に意識を向ける。合理的な選択だが、並みの神経では出来ない行為だ。


ブーメランは墜落し、小瓶は割れて毒を地面に撒き散らした。



「ハッ!ザコの浅知恵じゃ俺には敵わねぇんだよ!」



岩壁が菓子のように二つに裂け、その隙間から槍が真っ直ぐに飛んできた。



「あー……そうかよ。」



マカナは小剣を引き抜き、槍と応戦する。


浅知恵か……まぁそうだろうな。誰と当たってもいいように装備を整えただけだ。賢者と戦うかなんて分からないし。


この作戦だって、戦うと分かった瞬間に急いで考えたものだ。そんな急ごしらえの手で英雄クラスの奴に勝てるなんて、本気で思っちゃいない。



「けどよ……。」



そういう咄嗟の機転ってやつで、生き延びた奴を……勝った奴を知っている。


そいつみたいにもしかしたら俺も……って思ったけど、やっぱ現実は相応に厳しいな。


縦横無尽に襲いかかってくる槍を弾きながらマカナは思考する。


まぁやっぱり……勝てるわけないか。片や英雄、片や一介の暗殺者アサシン。勝負にならないなんて、誰が見ても分かることだ。


けどまぁ、ただで転んでやるつもりはないというか、負けてやるつもりはない。どうせ負けるなら、少しでも情報を引き出してから負ける。



「……ん?」



勝つとか言っといて、なに弱気になっている?


いや、ただの雇い主に対して、そこまで感情的に動いてやる必要は……。


それも違うか。


俺は首を小さく横に振る。


少なからず、俺は雇い主(エレジーナ)に対して好意を持っている。そんな気がする。でもよく分からない。そういう感情を持ったことがないから。


これまで合理性とか仕事だからとか、そんな風にしか物事を見ることが出来なかった。だから後でこの感情が何なのか、誰かに聞いてみるか。


アベリアとかエヌマエルが詳しそうだ。何となくだが。



「おい。何を考えてやがる?」



「さぁな?」



苛立った問いかけを俺は軽く流す。


とりあえず、今はこいつ相手に集中するか。


毒はまだ持っている。それを当てられれば……。投げるのでは駄目だ。防がれる。何とか近接戦に持ち込めば、どさくさ紛れにぶつけることが出来る。その線でいくか。



「──何をごちゃごちゃ考えてんのか知らねぇが、面倒だからよ。格の違いってやつを見せてやる。そんで死ね。」



そう言うと賢者は懐から何かを取り出した。


何だあれ……?


掌サイズで銀色の、薄くて四角い……。


カードか何かか?それが複数重なっていて……。



「あばよ。」



「何言って……ッ!?」



そう呟いた直後、カードの束がバラバラに襲いかかってきた。


前方の複数の角度から同時に襲われ、上半身に切り傷が大量に入る。



「ぐっ……!」



何が起きた!?風に乗ったのか!?


いや、そんなわけがない。冷静になれ。奴の魔法だ。



「くそっ……!」



剣だけではどうしたって防げない。数が多すぎる。


嫌な汗が背中を伝う。


この量の物質を同時に操れるのか。一つひとつが小さいとはいえ、何という集中力だ。


次々と身体が切られていく。防ぐどころの話ではない。身動きすらとれない。竜巻が刃物になり自分を閉じ込めたかのようだ。



「……。」



ドゥーフはカードを操るために集中しつつも、冷めた目でマカナを見ていた。


──なんで立つ?無駄な努力だろ?


どうせ、もう少し切られたら血の流しすぎで倒れるだろうが。だったらそうなる前に、降参でもしろよ。まだ勝機があるとでも言いたいのか?



「ムカつくなぁ!てめぇ!」



嫌いな奴だ。


実力差をわきえない。俺の嫌いなタイプだ。


……まぁ……さっさとケリを着けてやればいい話か。



「がぁっ!?」



カードの操作を止め、槍を足に突き刺してやった。


マカナは小剣を強く握った後、地面に倒れた。



「……ハッ!」



魔法でカードと槍を回収し、俺は舞台から出る。背後で俺の勝利を告げる声がしたがどうでもいい。


そして城への帰り道、連合の奴らが追いついてきた。



「とりあえず、勝利おめでとう。」



「これでいいだろ?明日は出ねぇ。てめぇらでどうにかしろ。」



話しかけてきた魔人を突っぱね、ドゥーフは独り城へと戻った。

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