17:美術館
扉を開けて美術館に入ると、暗いエントランスに大勢の冒険者がたむろしていた。
ギルドに所属している総数を考えると、ここにいる冒険者の数は決して多くはないのだろうが、フィカスには多くのベテランが来ているように思えた。
「何だぁガキども?冒険者ごっこか?」
ガラの悪い男がフィカスたちに近寄ってきた。
「単なる小遣い稼ぎなら帰った方がいいぜ。ガキじゃあ足手まといになるだけだからな。」
そう言って下品に笑う男に対して、ジギタリスがゆっくりと近寄った。
「おうおう!おっさんよ、ガキだって思ってると、足をすくわれることになるぜ!」
「んだとガキ……でかっ!何だお前!?」
ジギタリスの体躯に恐れをなしたのか、ガラの悪い男はぶつくさ文句を言いながら遠ざかっていった。
「ありがと、ジギタリス。」
「いいってことよ!俺たちはパーティーだからな!それによ、俺に喧嘩売る奴なんざ、そうそういねぇしよ!」
確かに、ジギタリスの身長と筋肉を見て喧嘩しようと思う輩は、ほとんどいないことだろう。
「皆さん!聞こえますか!」
女性の声がエントランスに響き渡った。
「あら~?受付のお姉さんだわ~。」
「冒険者の皆さん!本日はお集りいただき、ありがとうございます!それではこれより、怪盗シャドウ捕獲クエストを開始します!各位、持ち場に移動してください!」
「それでは、行きますか。」
正面の通路を真っ直ぐに進み続け、暗い通路を歩いていくと天井の高い広めな部屋に到着した。
「あれが例のネックレスか。」
他には何もない部屋の中央に、ポツンと青いガーネットのネックレスがガラスケースに入れられ、置いてある。
天井のステンドグラスを通した月明かりが美しく宝石を照らしている。
「では、私はこの宝石の前に立っているので、南以外の場所に各々ついてください。」
西にアベリア、東にジギタリスがつき、フィカスに北側――サンナの背中が見えるところについた。
あとはひたすら、待つことのみ。クエストに参加している冒険者の誰かが怪盗を捕まえたり、そもそも怪盗が来なければ、特にやることはない。
フィカスは通路を覗き込み、あまりの暗さに先を見ようとすることを諦めた。そして、部屋の壁によりかかり、物音を聞き逃さぬように注意する。
…………。
何も起きないまま、時間だけが過ぎていく。通路からも物音が一切せず、他の冒険者たちが戦っていないことが容易に想像できた。
本当に来るのかな……。
ナイフを握りしめ、ガラスケースに体重を預けるサンナの後ろ姿を眺める。
月明かりだけが頼りで、黒づくめのサンナの姿は捉えにくい。
そもそも……あそこに立っているのは、本当にサンナなのか……?
怪盗が変装していて、盗む隙を伺っているんじゃないのか……?
フィカスは頭を振って邪な思考を払った。自分が仲間のことを信じないでどうする?彼女は一緒にここまで来た。入れ替わる時間はなかった。
「ふぅ……。」
退屈のせいか、暗闇のせいか、おかしな方向へ思考が傾く。
しっかりしないと……。
フィカスの髪を優しい風が撫でた。
風……?
どうして館内で風が……?窓はないはず……?
横を見ると、音もなく何かがフィカスの隣を通った。