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マジックセンス  作者: 金屋周
第十三章:未来を懸けて
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174:夜空

「ねぇフィーくん……私ね……。」



何となしに外へ出たサンナだが、アベリアの後ろ姿を見て歩みを止めた。


彼女の前にはフィカスもいる。その雰囲気を見ると、何だか自分が入っていってはいけない気がした。


その結果、木陰に隠れ動くタイミングを見失ってしまった。



「……ううん。今はやっぱりいい。」



「今はいいって……。」



フィカスは首を傾げた。


アベリアが話があるからって言って外に出たのに……どうしたんだろう?



「あぅ、えっとね。話はある……んだけど、なんというか……。」



「うん。落ち着いて、アベリアのペースでいいから。」



そう言ったものの、目の前でモジモジされると何だか落ち着かない。


気まずさのようなものがあって、それを誤魔化すように夜空を見上げた。



「……。」



月と星が輝いている。新月が終わったばかりの、限りなく細い三日月だ。


その月を見ていると、以前エヌマエルが言っていたことを思い出した。



「……月が綺麗ですね……だっけ……。」



大切な人に向けて言ってほしい。


そんなことを彼女は言っていた。


……大切な人?


それってなんだろう?友達と……仲間と、どう違うんだろうか?



「えっ!?フィーくん……今のって……!?」



我に返ると、目の前でアベリアが驚いた表情をしていた。



「あっ……声に出てた?前に言われた台詞なんだけど……。」



「言われた!?誰に!?」



「えっ、エヌマエルに、だけど……?」



グイグイくるね。今日は。



「エヌマエルさんにっ!?ほ、本当なの!?」



「う、うん。本当だよ……?」



そんなに気になる台詞だったのか。


アベリアは意味を知っている感じの反応だし、上流階級というか、学のある人なら気になる台詞ってことかな?



「そ、それで?フィーくんはなんて答えたの?」



「なんてって……?」



記憶を掘り起こす。


あの時、そう言われて僕はたしか……。



「……特に答えてない、気がする……。」



それを聞いてアベリアはほっとした顔になった。


しかしすぐに難しい顔になり、自分の胸に手を当てた。



「……やっぱり……でも私もまだ…………。」



「アベリア?」



ぼそぼそと何か呟いたが、ほとんど聞き取れなかった。



「ううん!なんでもないの!それよりもフィーくん!」



グッと拳を握り、僕の胸に当てる。



「全部片付いたら……ちゃんと言うから。明日から頑張ろうね!」



「──うん。頑張ろう。」



「それだけ!」



「あっ!」



アベリアは振り向くとそのまま走って行ってしまった。


……あれ?何の話をしてたんだっけ……?



「まぁ……いっか。」



再会したばっかりだし、色々と積もる話もあるかもと思っていたけれど、そういうことではなかったみたいだ。


あまり話さないっていうのは、出会った頃から変わらない……いや……。



「そうでも……ないか。」



大人しい女の子っていう印象は出会った時からそんなに変わらないけど、初めの頃よりは明るくなったと思う。前は一歩身を引いていた感じだった。


いつもニコニコしていて、ほんわかとした雰囲気の女の子だった。それが段々と変わっていって……。



「……大切な人……ね……。」



まだ、よく分からない。


きっと、子供の頃に、そういう人がいなかったから。そういう感情を持たなかったから。


でも……。


いつか、分かる日が来るのかな。










「アベリア。」



「あら?サーちゃん?」



私はしばらく木陰に隠れ、フィカスが宿舎に入ったのを見届けた後、アベリアが帰ってくるのを待っていた。



「……。」



アベリアは自分の胸に手を当てた後、私の胸元を睨んできた。



「……どうしました?」



まるで敵のように睨み付けて?



「……サーちゃんもエヌマエルさんも……エレジーナの周りって大きい人しかいないのかしら?」



「大きい……?」



アベリアも別に背が低いってほどでもない気がするが。



「あっでも六号ちゃんがいたわ。」



「……何の話ですか?」



「……何でもないの。」



そう答えて、アベリアは歩き出した。



「それでサーちゃんは、何をしていたの?」



「アベリアが外にいるのがたまたま見えたので……少し話そうと思って。」



これは本音だ。


アベリアの持つ、フィカスへの想いは知っていた。何となくというか、感づいたというか、どこで気付いたかは覚えていないが、そういう感情を持っていると理解した。


私は友人として、それを応援すべきだ。



「あら~?そうなの?」



「そりゃあ私だって……そういう……。」



そんなに私がそういう行動をするのがおかしいのか?


アベリアはニコニコと笑い、私は頬が熱くなるのを感じる。



「うふふ、ごめんね。サーちゃんがそう言ってくれるのって、何だか嬉しくて。」



しっかりしているけれど、どこか冷たくて怖い。


それがアベリアの持つ、サンナへの第一印象であった。


だからこそ、こうして喋るために待っていてくれて。からかわれると恥ずかしそうに顔を赤くする。


そんな普通の女の子のような様子を見て、嬉しくなった。職業とか立場とかを一切気にしない、そんな憧れていた関係になれていたことが、たまらなく嬉しい。



「嬉しい……?私がそういうことを言うと、ですか?」



「うん。きっと皆も同じこと言うと思うわ。」



──やっぱり、この娘(アベリア)の言うことは、時々分からない。


でも、こうやって素敵な笑顔になれることは尊敬出来る。きっと私は、こういう風に笑うことは出来ない。


……落ち着いたら私も、少女らしくなれるよう努力してみるか?



「……?」



見つめると、笑みを浮かべたまま小首を傾げた。


……やはり、私にこういう仕草は似合わないだろうな。きっと。

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