171:集合
「……パーティー……ですか?」
「そう。ほら、行くよー。」
疑うようにサンナが尋ねたが、エレジーナはあっさりと頷き歩き出した。
──裏があるようには見えないな。
「──行きましょう。」
サンナは目配せし、皆は頷きあるとエレジーナの後をついて行った。
「それで、どこに行っていたんですか?」
「それについても、行けば分かるはずだよー。はい一号ちゃん、落ち着いてねー?」
何か言いたげなエヌマエルの頭をポンポンと撫でた。
一号、という言葉にサンナとウルミは同時に彼女を見た。
「二人はどういう関係なんすか?」
「それはねー……いつか話すよ。ここだったかな?」
マカナの質問も流し、大きな両開きの扉を開けた。
「あ、合ってた。」
そこは赤い絨毯が敷かれた、広い部屋だった。
あちこちにテーブルが置かれ、その上に料理ののった皿がある。
そして十人ほどの人がいた。
「おっ来たね。久しぶり、フィカスくん。」
「リコリス……あれ?」
よく見てみると、顔見知りが何人もいる。
それにしても……。
フィカスは拳を無意識に握った。
嫌な雰囲気だ。冷たい……というより、ピリついた感じだ。近寄りがたい、長居したくない……そう思わせる空間だ。
「……ごめんね。」
「えっ?」
リコリスは僕の肩を掴むと、俯いて小さな声で謝罪した。
「……僕たちは敵側に回ることになった。」
「……どういうこと?」
「冒険者である以上、国には逆らえないんだ。君やエレジーナさんが例外ってだけでね……。」
「あら?入口に立っていては、邪魔になってしまうわよ?」
背の高い女性が声をかけてきた。赤黒い髪をした美人な……。
「えっと……アモローザ、さん?」
「ええ。お久しぶり、フィカスくん?」
アベリアのお姉さんだ。
苦手と言っていたけれど、その理由はなんとなく分かる。仕草とか雰囲気とかが、綺麗なんだけどどこか怖い。
「さっ入りなさい。もう少ししたら、国王様がいらっしゃるそうよ。」
「……はい。」
ゆっくりと部屋に足を踏み入れる。
どういう訳があって、ここに人が集まっているかは分からないけど、国王が来るというのなら、それは好機だ。自分の意思をはっきりと伝えられる。
「よぉ、遅かったじゃねぇか。何かあったのかよ?」
「ドゥーフ、まぁちょっとね……。」
奥にあるひと際豪華なテーブル席から立ち上がり、ドゥーフが話しかけてきた。
「少し話してくるよ。」
皆にそう言い、僕はドゥーフのいるテーブル席へと移動した。
皆も皆で話したいことがあるだろうし、自由行動ということにしよう。
「退屈していたところだ。こんな奴らと同じ席にされたせいでな。」
そう言ってドゥーフは指で同席していた二人を差した。
茶髪の細身な少女と長い黒髪の女性だ。
「こんな奴、とは失礼だな。貴方のその口の悪さに、私も同じ感情を持たざるを得ない、というところだが。」
「ハッ!ガキが言うじゃねぇか。てめぇにどう思われようとどうでもいいが、この俺に対して偉そうな態度取るんじゃねぇぞザコが。」
「貴方こそ、その態度を改めるべきだ。敵を作るだけで良いことなぞない。」
茶髪の少女は咎めるようにそう言うと、フィカスの前に立った。
「はじめまして。貴方がフィカスだな?アベリアから聞いている。私はアギオス、南大陸のパラディソス国から来た。このような格好ですまないな。」
たしかに、露出が少し多い服装だ。パーティーの雰囲気には合っていない気がする。
「無理やりこのような服を着せられたものでな。出来れば貴方たちのような、冒険者らしい格好でいたかったのだが。」
「えっ。」
普段はもっと過激な服を着てるってこと?
「ついでに紹介をしておこう。あそこに赤髪の男がいるだろう?」
スラッとした男性を差した。穏やかな雰囲気の男性だ。
「彼はノソス。私と同じくパラディソスから来た者だ。」
ここにいるってことは、リコリスたちと同じくらい凄い冒険者ってことだよね。
ドゥーフの方を見ると「知らねえよ。」と小さな声で言った。
「さて、私と彼の紹介はこれくらいにしておこう。アズフ、貴方も自己紹介を。」
座ったままの女性に声をかけた。
「あ、うん。そうだね。」
長い黒髪の女性は頷くと立ち上がった。
「はじめまして、アズフっていいます。東大陸のディブルから来ました。よろしくね。」
「あぁうん……よろしく。」
なんというか、変な雰囲気を持った人だ。
口調は友好的だけど、無表情だ。そして目にはなんの光も灯っていない。
「いや~こうして会えて嬉しいよ。創造魔法が使えるんだよね?見てみたいなぁ?」
「え、えっと……。」
心ここに在らず、だ。比喩ではなく、文字通りだ。目の前にいるはずなのに、どこか違うところから見ているような、別の何かを介して話しているような、人ではない何かを感じさせる人だ。
「諸君、集まったようだな。」
その時、入口が開きレグヌム国王が入ってきた。
「……!」
「かしこまらなくてよい。全員、揃っているな?」
入口で仁王立ちし、室内を見渡した。
「では──改めてここに宣言する。勇者候補・フィカスの所属をかけた試合を執り行う!」