170:再会
フィカスの体が後ろへと傾き、すぐ後ろに立っていたセプテムとエヌマエルは反射的に手を伸ばし、倒れる前に彼の身体を支えた。
「わっ!……。」
フィカスは驚いた表情を見せたが、すぐに優しい顔へと変わった。
抱きついてきた彼女の頭を優しく撫でる。
「……ただいま。」
彼女は僕の胸に顔を押し当て、背中へと回す腕の力を強めた。
その力がゆっくりと抜けていく。
目の端に涙を輝かせ、顔を上げた。
「……おかえり。……フィーくん。」
そして彼女は——アベリアは小さな声でそう言った。
──おぉー……この方がフィカスさんの……?
エヌマエルは好奇心に満ちた目でアベリアを見つめる。
「感動の再会っていうのは分かるけど、一旦離れなさい。」
セプテムがフィカスの横に立ち、アベリアの頭にチョップを入れた。
「……久しぶりね。」
「ええ。五人集合するのは、本当に。」
部屋にいたもう一人がこちらに近づいてきた。
「無事で良かったです。フィカス、セプテム。」
腰に手を当て、サンナは微笑んだ。
「ガハハ!サプライズは成功だな!」
「まぁそういうことにしておきますか。……で、この人は?」
エヌマエルを指差す。
「はい!エヌマエルっていいます!」
「はぁ……どうも。」
──とても強そうには見えないな。
剣を背負ってはいるが、仕草を見るに一般人のように見受けられる。荷物持ちか?
「それで、あんたたちがここにいるってことは、それなりの理由があるってことでしょ?」
セプテムのこの質問にサンナの目つきが鋭くなった。
「ええ。中に入ってください。」
「僕は外にいますので、何かあれば言ってください。」
カナメが気を利かせてそう言った。
他の皆は部屋に入り、置いてある椅子に思い思いに腰を下ろす。
サンナは足を組み、フィカスをじっと見つめる。
「──呼ばれたんです。私たち三人はレグヌム国王に。フィカスを確保する手伝いをしてほしいと。」
アベリアが話を引き継ぐ。
「私たちは最初、それぞれ別のパーティで外国に行っていたの。そこでしばらく活動していたのだけど、その時にレグヌムから国際手紙が来たの。」
手紙……恐らく、フェルティ国王の言っていたものだろう。
「既に知っているかもしれませんが、その内容は国家間で協力し、フィカスを捕らえるというものです。ただ、それは犯罪者扱いするということではなく──。」
「──交渉をした上で、という話だったわ。」
交渉か──。
アベリアとサンナ、ジギタリスがここにいるってことは、その交渉に協力するつもりってこと……になるのかな?
でも、もしそうなら、こうやって普通に話していられるのはおかしい気もする。
「で、あんたたちはどうする気なの?」
「おう!もちろんフィカスに協力するぜ!」
ジギタリスが威勢良く即答し、アベリアとサンナがその言葉に頷いた。
「ありがとう……他の人たちは?」
パーティを組んでいたってことは、少なくとも数人は仲間がいるってことだ。その人たちはどう回答したんだろうか。
「分かりません。返事はレグヌムに帰って来てからすることになっていましたから。けれど、エレジーナたちは帰って来て以来、姿が見当たりませんし……。」
「エレジーナっ!?ここに来てるんですかっ!?」
ガタッっと椅子を倒しながら立ち上がり、エヌマエルがサンナの肩を掴んだ。
「はい?……同行していたので。それが何か?」
そっか。
エヌマエルがエレジーナを捜しているってこと、皆は知らないもんね。
「えっとね、エヌマエルはエレジーナに会うために旅をしているんだ。それで僕たちと一緒に来ることになったんだ。」
「……なるほど。」
──エレジーナを知っているのか。
肩に置かれた手を離しながら、サンナはエヌマエルを観察する。
一般人だと思っていたが、違うみたいだな。堅気ならば彼女を知ることはない。
「まぁ……。」
……どこかでたまたま出会って、追っかけをしているだけかもしれないが。
「はい?」
その時、扉をノックする音がした。
カイドウかカナメかな?そう思って返事をしたけれど、違う人物が入ってきた。
「どうもー。挨拶のネタが尽きたエレジーナでーす。」
「あっ。」
丁度、話題になっている人が来た。というか、いつも挨拶がてら何か言っていたけど、意外と考えて言っていたのか。
「やぁフィーくん、久しぶりだねー。いやー、国から執拗に交渉されてねー。大変だったんだよー?まぁフィーくんのためだからねー、頑張っちゃったよー。」
「エレジーナ!見つけましたよぉっ!!」
今まで見せたことない動きでエヌマエルは距離を詰め、逃げ道を塞ぐように両手を前に突き出した。
──が、エレジーナの背後は壁ではなく扉。壁ドンは失敗しエヌマエルとエレジーナは激突した。
「痛いなーもう。……うわっ。」
「うわってなんですか!?せっかくまた会えたのに、その反応はなんなんですかぁ!?」
「……。」
エレジーナは目線を逸らした。
こんな様子を見せるのは初めてだ。
やっぱり、後ろめたさとかあるのかな……?
「エレジーナ、それよりも……。」
ドアの外からマカナとウルミがひょっこりと顔を見せた。
「あー、そうだったねー。」
エレジーナはエヌマエルを遠ざけ、フィカスに手を伸ばした。
「この後、パーティーがあるんだ。行こうか。」