169:到着
「そろそろか?」
「そろそろですね。」
レグヌムの港にて、大小の影が一つずつ——ジギタリスとカナメはそわそわした様子で海の方を見ていた。
何かトラブルが起きなければ、そろそろ船が到着する時間だ。
「あ!あれですよジギタリスさん!」
「おう!」
カナメがいち早く船を発見し指差した。
それにジギタリスは頷き、自らの拳を固く握った。
——こっから大変になりそうだ。
再会を喜びたい気持ちももちろんある。けれど、喜んでばかりもいられない。気を引き締めていかねばならない時だ。
「おう!フィカス!セプテム!よーやく会えたな!!」
なんて思考は、船から出てきた二人の姿を見るや否や吹き飛んでしまった。
駆け寄って二人の肩をバンバンと叩く。
「ジギタリス!……久しぶりだね。」
フィカスもまた笑顔になったが、一瞬でその表情が曇る。
生き延びるためとはいえ、何も言わずに去ってしまった。その事実はどうしたって変わらない。
その気まずさが彼を無邪気に喜ばせないでいた。
「痛いわよ!……ったく、少しは落ち着きなさいよ。」
「……おう。そだな。はしゃいでばかりもいられないよな。だがその前に……。」
ジギタリスはフィカスの背中を思いっきり叩いた。
「——った!」
「暗い顔してんじゃねぇぞフィカス!相談してくれなかったことはたしかに悔しかったが、別に今はどうでもいい!だから気にすんな!その程度で俺たちの友情は壊れたりしねぇぜ!」
「……!……うん!」
——嬉しかった。
正直、なんて言われるか怖かった。他の人みたいに、手のひらを返すように酷いことを言われるかもしれないと思った。
「ほぇ~……この人がフィカスさんのお仲間ですか?なんだかパワフルな感じの方ですねぇ。」
「うん。紹介するよ、エヌマエル。彼がジギタリス、僕のパーティの回復役を務めていたんだ。」
フィカスの後ろに立っていたエヌマエルがひょこっと顔を見せ、彼女の顔をまじまじと見たジギタリスは固まった。
「おい……フィカス……。」
「なに?」
肩を組み、顔を引き寄せる。
「なんだあのめっちゃ可愛い人は?美人とも可愛いともとれる理想の女性みたいな人は!?」
「ちょ落ち着いてよ!」
耳元で大声を出され、思わず顔をしかめる。
「エヌマエルっていうんだ。旅の途中で出会って一緒に来ることになったんだよ。」
「なるほどな……流石だな!」
「……?」
……何が?
「ジギタリス、会話が弾むのも分かるが、今は用事が優先だ。——皆さんにはそのまま馬車に乗ってもらい、レグヌム城まで行ってもらいます。もちろん、俺とカナメも同行します。」
カイドウが停めてある馬車を差した。
「おう!そうだったな!じゃあ行こうぜ!」
大きな馬車に皆で乗って、そのまま移動開始。
道中、ドゥーフが何も喋らなかったのが気になったけど、そんな彼の雰囲気に気圧されたのか、誰も話しかけようとはしなかった。
「ねぇ、ジギタリス。」
「おっ?どうした?」
馬車の速度が少し落ちた。
町中に入ったのだろう。
「この後、何が起きるの?」
しばらく一人で考えていたが、結局思いつくことは何もなかった。もうすぐ目的地に着いてしまうだろうが、一応は聞いておきたい。
「うーん……俺も沢山集まってるってことしか知らないんだよなぁ。けどこうやってキチンと招待している以上、悪いようにはならないはずだぜ?」
「なら……いいんだけどね。」
そっぽを向いていたセプテムがぼそりとそう呟いた。
冷たいようだけど、その気持ちも分かる。
本当に良い方向に話が進んでいくのか、疑わしくて不安にもなってくる。
「着いた。皆さん、降りてください。」
気が付くと、レグヌム城の前にまで来ていた。
「フィカス殿を連れてきた。」
カイドウが門番にそう伝え、城門が開く。
「俺はこのまま報告に向かう。ジギタリスとカナメは四人を案内してくれ。」
「おう!」
「はい。兄さん。」
兄弟だったの!?
エヌマエルは密かに驚いた。
真面目そうな兄と可愛らしい弟……やっぱり、あんま似てない気がする。
「——っと、すまないが賢者殿も一緒に俺と来てくれ。」
「……ああ。あの話だろ?分かってる。」
あの話……?
「じゃあな、フィカス。また後でな。」
「えっ……うん。」
何なんだろう……?
「じゃあみんなは俺について来い!サプライズが待ってるぜ!」
「サプライズって言っていいもんなの……?」
セプテムがジト目で尋ねたが、ジギタリスはガハハ!と笑って誤魔化した。
廊下を進む最中、何人かの人とすれ違ったが、僕の顔を見ても特に反応はなかった。
騒ぎは過ぎ去ったのかな……?嫌な予感は、単なる思い過ごし……?
「この部屋だ。フィカスが最初に入ってくれ。」
あ……この部屋、前に五人で泊まった部屋だ。
懐かしいな……まだ一か月ちょっとくらいしか経ってないのに、もうずっと前のことのように思える。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。
中に入ると、そこには二人の人物がいて……。
気が付くと、目の前に跳びかかってくる一人の人物がいた。