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マジックセンス  作者: 金屋周
第十二章:集結
172/222

168:船

レグヌムに行く……?


今まで考えていなかった……いや、考えないようにしてきた。


それだけに帰った時のことを想像すると、思わず身震いしてしまった。どう思われているかは分からないが、少なくとも歓迎はされないだろう。



「……どうしても、行かなきゃ駄目なの?」



「ああ。だが安心しろ。歓迎はされるだろうからよ。」



「……?」



ドゥーフの言葉の意味が分からなかった。



「まぁ勝てばいいだけの話だ。重く受け止めんなよ。」



「勝てば……?一体どういうことなの?」



しかしドゥーフは首を横に振るだけで答えてくれなかった。


仕方ないので僅かな幌の隙間から外を眺める。そんなに時間は経っていないと思うが、少なくとも町は出ただろう。


あれ……?



「レグヌムに行くんだよね?なら海に行くんじゃないの?」



この辺りの土地勘がないため何とも言えないけど、海に行きたいなら森の方へ行けばいいんじゃないの?



「港に行くんだろ。つーかお前ら、港から来たんじゃねぇのか?」



「森の方に海岸があるでしょ?私たちはそこから来たわ。」



「はっ?」



ドゥーフは頭の中に地図を思い浮かべる。


――たしか対岸にうっすらと山が見えてた気がするが……そこから来るなんて……。



「バカだろ。お前ら。」



「あ?どういう意味よ?」



「まぁまぁ。」



フィカスとエヌマエルが同時に止めに入った。


これから大変なことが起こるかもしれないんだから、喧嘩してる余裕はないでしょ。



「港だ。ここから船に乗る。移動だ。」



そう言って黒ローブの人物は馬車を停め下りた。


僕たちもそれに倣って馬車を下り、後を追うように歩く。



「あの船だ。」



停めてある大きな船を指差した。


大きな旗が潮風に揺られている。それには豪華な紋章のようなものが刺繍されていた。初めて見たが、きっとレグヌムの紋章だろう。


そしてその前で男性が手を振っていた。



「はじめまして。俺はカイドウ。君がフィカスくんだね?」



「あ、はい……。」



眼鏡をかけた、賢そうな男性だ。背は僕と同じくらいかな?



「ジギタリスから君のことはよく聞いているよ。それで彼が北大陸の賢者……君がセプテムさんだね。そして君は……えっと……。」



「エヌマエルです!」



そう言ってピシッと手を挙げた。



「そうだったね。エヌマエルさんだったね。」



そう言いつつ首を傾げていた。


まぁ……知らなくて当然だよね。レグヌム城下町周辺にいた時にはいなかったから。知り合ったのは逃亡を始めてからのことだし。



「フィカスさん。」



肩をちょんちょんとつついてきた。



「なに?エヌマエル?」



「私、この方と知り合いでしたっけ?初対面な気がするんですけど……。」



「ああ……うん……そうかもね。」



内緒話はここまで。


カイドウに案内され船内へ。



「レグヌムの港に行くには、少し時間がかかるんだ。航路上、どうしても遠回りになってしまってね。まぁ明日には到着すると思うよ。それまでゆっくりとくつろいでくれ。」



「あぁ。そうさせてもらうわ。」



ドゥーフは面倒臭そうに頭を掻いて、大量にあるドアの一つを開けてその中に入っていった。


僕たちは少し広めな部屋に。テーブルがいくつか置いてあるから、食事をするところでもあるのかな。



「で、私たちをこんな豪勢に出迎えてくれるって、国王様は一体何を考えているのかしら?」



いつの間にか黒ローブを人はいなくなっていた。


カイドウは顎を摘み、それから室内を見回してから口を開いた。



「――冒険者でない以上、俺も詳しくは聞かされていないが。」



そう前置きしてから彼は話し始めた。



「レグヌムは今、国中から選りすぐりの冒険者を集めている。とは言っても声がかかるといえば、恐らく君の知り合いくらいだろう。」



君は勇者候補なのだから、と付け加えた。



「それと同時に各大陸の主要国に、協力を仰いでいる。君たちを手に入れるために、何か大きなことをしようとしているようだ。」



「具体的には、何をしようとしてるの?」



「分からない。それを知っているのは一部の者だけだろう。賢者も呼ばれている以上、予想することは出来るが……確証がないのに意見を述べるのは、不安にさせるだけだろう。だから、今のうちにゆっくり休んでほしい。」



「まっそうね。休ませてもらうわ。」



セプテムは頭の後ろで手を組んで部屋を出ていった。その後を慌ててエヌマエルが追いかけていった。



「――彼女は頼もしいな。怖気づく様子が微塵も感じられない。」



「うん。セプテムは……凄い人だよ。」



冒険者としても、人としても。


口が悪いこともあるけど、面倒見がよくて視野が広くて……尊敬出来る人だ。



「さっ、君も休んだらどうだ?ストレスもあるだろうし、くつろいだ方がいいだろう。」



「うん。ありがとう。そうするね。」



どの部屋も自由に使っていい、別れ際にカイドウはそう言った。


適当に見繕おうと船内を歩きながら見渡していると、デッキに出る階段を見つけた。


せっかくだし……。


上ってみよう。


甲板に顔を出した途端、強い風に顔をしかめた。踏ん張って歩かないと転びそうだ。



「……よっと。」



慎重に歩き端にある手すりを掴む。


船はガンガン進み、既に大陸は遠ざかっていた。



「……ふぅ。」



目を瞑り、短く息を吐く。


覚悟を決めよう。


もう逃げない。


自分の意思をしっかりと持ち、正しいと思った道を進んで行くんだ。

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