166:連携魔法
「……まぁ、死んではねぇだろ。」
「そりゃそうだろうけど……どういう根拠よ?」
舌打ちとともにセプテムは炎を放つのを止め、その場を飛び退いた。
直後、竜の牙が先ほどまで立っていた地点を砕いた。
「根拠なんざねぇよ。ただ、これくらいでくたばるようなタマじゃねぇからな。」
「……っそ。」
素っ気ない返事をするが、セプテムは心の中で感嘆していた。
――あの毒舌家のドゥーフにここまで言わせるだなんて、大したもんね。ホントに。
「――で、どうするつもり?」
氷穴内という環境により、ドゥーフの魔法は封じられているも同義。竜の強靭な鱗と息により、セプテムの魔法も効果がほとんどない。
つまり、このままでは勝てない。
現状を打破する策が必要だ。
「んなもん、最初から答えは出てるだろーが。」
そう言ってドゥーフは穴の淵に立った。
「オイ!フィカス!さっさと上がってきやがれ!」
――。
「そう急かさないでよ。まったく……。」
溜め息を吐いて、フィカスは穴の底から上を見上げた。
――声がしたのはあの辺り……か。
「フィカスさん、どうやって上まで戻るんですか?」
「僕たちだけの力じゃ難しいと思うんだ。だからね――。」
思考した結果、ルートは二つ。
そのどちらを採用するかだ。どちらにも危険はある。この状況ならば、どちらを採ることが正解か?
「ちなみにエヌマエルは、登ったりすること、得意?」
「苦手です。」
キッパリとそう答えた。
まぁ……やっぱりそうか。運動が得意ってわけでもなさそうだし。
「なら、こっちの選択肢だね。」
竜の背中をよじ登るルートは却下だ。
必要なのは……。
「……えっと、炎ってどうやったら出るの?」
考えてみたら、魔法による炎しか見たことがなかった。けれど、魔法使いにしか炎を出せないだなんてことはないと思う。工夫によって、誰にでも出せる何かがあるはずだ。
「炎ですか?それなら……石と石をぶつけると起こると思います。」
「石同士を……うーん……。」
それなら、とっくに炎が発生しているはずだし……想像しているよりも難しいのかも。
だったら、竜に気付かれる可能性があるけど、別の方法を採った方が良さそうだ。
「えっと……たしか……。」
思い出せ。
図書館に行った時に、武器図鑑で見たはずだ。
見たのは一瞬だった。そもそも、形状が難しく本気で記憶出来るとは思わなかった。
それでもいい。記憶にある断片を頼りに思い出せ。分からないところは予想で補え。
「……フィカスさん?」
突然黙り込んだ様子を見て、エヌマエルが心配そうに声をかけてくれた。
でも悪いけど、今は無視だ。
初めての物を想像することは難しく大変だ。少しでも集中が途切れると全てが水泡に帰す。
「――……出来た!」
「それって……ボーガン?」
「うん。初めてだったけど、多分上手くいったと思う。」
形状はなんとなく覚えていた。そこに予想と想像で補って創造した武器だ。
「こうやって……こうかなっ?」
頭上へ向け、トリガーを引いた。
空を切る音がし、放たれた矢は真っ直ぐ上に向かって飛んでいった。
「そこか!」
次の瞬間、叫び声が聞こえ二人の身体が浮き始めた。
「えっ……これって……うわわわわわっ!?」
二人は風に持ち上げられ急上昇。その感覚にエヌマエルは悲鳴を上げるが、フィカスは対照的に落ち着いていた。
「よし!上手くいった!」
「いい知らせ方だったわよ。」
フィカスは上にある足場――セプテムとドゥーフがいる地点に着地すると、竜の方を向いた。
「ドゥーフ!頼む!」
空中に岩石や石柱を片っ端から創造する。
普通ならばすぐに落下し、武器にも盾にもならないが――。
「この俺を待たせやがって……喰らえッ!」
無生物を自在に操るドゥーフの魔法を使うことにより、それは攻防に使える物へと早変わりする。
「す……凄い……!」
地面にへたり込み、エヌマエルは驚嘆の声を漏らした。
竜の身体にぶつかりほとんどの物質は砕けてしまうが、連続して創造することにより連続して攻撃することが可能となっている。
「ええ……やっぱりあの二人の魔法、相性が良いわね。」
ドゥーフの魔法は周囲に物質があることが前提と言っていいものだが、フィカスの魔法がその欠点を見事にカバーしている。
「ドゥーフ!どこまでやるの!?」
「ハッ!殺すに決まってるだろ!」
「……ッ!……分かったッ!」
命を奪うことを、相手を殺すことを良しとしたくない。
けれど、誰かが危機に陥っている状況で、誰かの命が失われようとしている状況でまで、その考えを貫く気はない。
大切なのは、知り合いの……友人の命だ。
「何をゴチャゴチャ考えてやがる!?もっと出しやがれ!」
「……分かってるよッ!」
負けじとフィカスは怒鳴り返し、意識を集中させる。
想像しながらも、次のことを考えろ……!目の前のことだけに集中するな……もっと広く……先を見据えて……!
もっとだ……!もっと集中して……!
「オイ……オイ!」
「えっ!?なにっ!?」
「いつまで創ってるんだ?もうケリは着いたぜ?」
「えっ?あっ……。」
我に帰り前を改めてみると、竜の姿はもうなかった。
ドゥーフの攻撃により倒れたのだろう。
……気が付かなかった……今……僕はどうしていたんだ……?