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マジックセンス  作者: 金屋周
第十二章:集結
169/222

165:暗闇

地響きのような咆哮とともに、巨大な蛇のような見た目をした竜が姿を見せた。


セプテムの炎しか灯りがないため、はっきりとは分からないが水色の鱗をしているようだ。顔はトゲトゲとしていて、顔だけ見れば蜥蜴トカゲのようにも見える。


手足は付いていないようだ。本当に蛇のように思える外見をした竜だ。



「おぉー……キレてやがんな、こいつ。」



「そりゃあ、あんたが急に岩をぶつけたからね!」



セプテムはドゥーフを怒鳴りつけ、右手から灼熱を放った。


再び地響きのような咆哮をし、竜は口から息を吐いた。


それはただの息ではなく、冷気を纏った息だ。灼熱と正面からぶつかり合い、双方ともに掻き消えた。



「チィ……私が魔法で引きつけるから、その間にあんたたちで何とかしなさい!」



「何とかって……どう何とかするんですか!?」



エヌマエルは剣を引き抜くも、ただそれを握ることしか出来なかった。


これほど巨大な敵に人間サイズの武器が効くとは思えない。そもそも、全身を覆う鱗に傷を付けることが出来るかどうかさえ危うい。



「ハッ!俺にかかれば楽勝なんだよ!」



「いやダメだってドゥーフ!」



フィカスが慌ててドゥーフを止めた。



「あ?どういうつもりだフィカス?」



「ここで魔法を使ったらダメだよ!」



無生物であるならば、意識を向けることで操ることが可能となるドゥーフの魔法。非常に強力だが万能ではない。


洞窟のような閉ざされた空間で使用した場合、地形を大きく変動させ生き埋めとなる可能性が出てくる。


フィカスはそれを危惧し、彼を止めたわけだ。



「……クソがよっ!」



舌打ちし、ドゥーフは槍を放り投げた。


槍は鱗に当たり落下するが、魔法により意思を持ったかのように連続で攻撃をする。



「チ……。」



効いていない。多少の傷が付いただけだ。



「危ないッ!」



竜は口を大きく開き、飲み込もうと牙を向けてきた。


フィカスは咄嗟に石壁を創造し防御するが、竜の頭突きはそれをたやすく突き破った。



「うわっ!えっと……!」



どうする?


後ろに退くのは間に合わない。横に跳ぶか?竜はどこまでこちらが見えている?動きが読まれる恐れはないと言えるのか?



「それっ!」



エヌマエルがフィカスの背中を押した。そしてそのまま背中から抱き着き、二人で竜の下半身がある穴へと落ちる。



「フィカス!」



セプテムとドゥーフが同時に叫んだ。


――くそっ!間に合わない!


セプテムは威嚇攻撃を止めるが、暗闇に紛れてしまった二人を見つけることが出来ない。


位置が分かれば、風魔法で助けることが出来るのに……!



「う……ここは……!」



一瞬焦ったが、フィカスはすぐに平静さを取り戻す。


落下の感覚には慣れている。落ち着いて事態を把握しよう。


上からはセプテムとドゥーフの声。つまり二人は無事だ。自分の背中にはエヌマエルがいるはず。不思議な感触が背中にある。


――安全に着地するには……!



「……これだ!」



少しだけ離れた位置に大きなベッドを創造する。暗闇の中に創造することは出来ないためだ。


底までの距離は分からないけど、すぐに着くはずだ。後はベッドに落ちる時の角度と位置を気を付ければ……!



「わぷっ!」



思っていたよりも着地が早かった。


重力が一気に襲いかかり、ベッドに深くめり込むとともに体重が一気に身体にかかる。



「ふぎゃ。……フィカスさん、大丈夫ですか?」



「うん。」



ちょっと重かったけど。


起き上がり、周囲を見渡す。灯りはここにはないけれど、暗闇自体に目が慣れてきたのだろう。ぼんやりと見えてくる。



「――こっち。」



エヌマエルの手を引いて後退する。


すぐ近くに竜の身体が見えた。こちらには気が付いていないようだが、そうでなくても踏み潰されてしまうかもしれないからだ。



「どうするんですか?」



上を見上げるが、暗闇しか見えなかった。


――セプテムは今、炎を使ってないのか……。


二人の位置が分からない。声を出したら伝えられるかもしれないが、同時に竜に位置を知られてしまうことになる。



「う~ん……どうすれば……。」



考えろ。


どうすれば竜を倒せ……。



「……。」



「……フィカスさん?」



今、自然と倒すことを考えようとしていた。


命を奪うことが正義と呼べるのか、それは本当に正しい行為なのか……そういうことを考えておきながら、実際にそういう状況に置かれた時、その考えが頭から抜けていた。


やっぱり、僕の考え方がおかしいのか……?



「――大丈夫です。だから、落ち着いてください。」



「エヌマエル……?」



彼女がそっと手を握ってきた。


暖かさが伝わってくる。



「フィカスさんが何を考えているのか、私には全然分からないですけど、深刻に捉えすぎないでくださいね?考えれば必ず答えが見つかる、なんてことはないと思います。」



「え……?」



「ふとした拍子に、何気ない時に……どういう時に答えが見つかるか、分からないと思うんです。だって、人なんですから。だから……落ち着いてください。」



「……うん。」



そうだ。


今ここで考えたって、状況が好転するわけじゃない。


人生はまだまだある。大きな悩みは後回しだ。


今は……どう切り抜けるかだ。

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