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マジックセンス  作者: 金屋周
第十二章:集結
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162:密談

「フンフフンフフーン♪」



メイド服を着、鼻歌とともにリズミカルに箒を振り、見るからに楽しそうにエヌマエルは城内を歩いていた。


広く面倒と思っていた掃除という仕事も、今では楽しめるようになってきていた。何事も全力で取り組んでみれば夢中になれるものだ。



「え~っと……後は……あれ?」



この部屋と隣の部屋くらい。


そう思って扉に手をかけたところで、その手を止めた。


室内から声が聞こえてきたためだ。


普通なら気にすることなく入るのだが、今回ばかりは勝手が違った。


中から国王の声が聞こえてきたためだ。



「む~?」



わざわざこんな小さなお部屋でお話?


一体誰と?



「……西大陸からの手紙だ。読んでみてくれ。」



西大陸……それってつまり、レグヌムからってことかな?


エヌマエルは慎重にドアノブを回し、音を立てぬよう扉を開ける。最低限、ギリギリ中が覗けるだけの隙間をつくる。



「……読み終わったか?どう思う?」



見えない!


丁度ドアの死角に立っているのか、覗いても声しか認識出来ない。



「メンドくせぇことになりそうじゃねぇか。だがよ、どうせ受けんだろ?」



国王とは違う、軽薄そうな若い男性の声が聞こえた。


この声……ドゥーフさん?


二人でこんな隅の部屋で会談?



「――断りたいというのが本音だ。しかし……。」



「他の国が受けるとしたら、ウチだけ断ることになる。そういう状況になることが怖ぇんだろ?」



「……そういうことだ。一遍に複数の国を敵に回すのはまずい。いくら賢者といえど……。」



敵に回す?


どういう話なのかな?


指で隙間を大きくする。そして室内を覗き込むエヌマエル。



「ハッ!この俺が後れを取るわけねぇだろ!その気になりゃ、何人でも相手にしてやるよ!」



「強がりはよせ。各大陸にはお前と同格の者が、最低一人はいるはずだ。それを同時に相手にするというのは、流石に”賢者”といえども無理だ。」



咎めるような口調で国王はそう言った。


ドゥーフは舌打ちし、腹立たしげに腕を組んだ。



「あーそうかよ!で、どうするつもりなんだ国王さんよぉ?」



そこで会話が途切れ、沈黙が流れる。



「――様子見だ。」



何十分も経ったような感覚があった。実際にはせいぜい一分ほどだが、それほどまでに重苦しい沈黙であった。


その沈黙を破り、国王がそう呟いた。



「……ま、そうなるわな。要は期限ギリギリまで待つってことだろ?」



「そういうことだ。それと賢者よ。明日、調査してほしい件がある。」



「わーったよ。――オラ!」



話は終わったみたいだ。


そう思ってエヌマエルが扉から離れた次の瞬間、扉が勢いよく開かれた。



「……!」



突然の出来事にエヌマエルは口元を手で押さえ、壁に隠れるように寄りかかった。



「……どうしたというのだ?賢者よ?」



「――気のせい……か。」



え……えええええぇぇぇっっ!?


音を立ててないはずなのに、どうして気付いたの!?


たまたま扉から離れたタイミングだったから見つからなかったけど、もし見つかっていたら覗き見するはしたない女だと思われてるよぉ!


エヌマエルはドゥーフが出てくる前にと慌てて、それでいて慎重にその場を後にした。



「嫌な気配がしたもんだが……あ?箒?」



床に落ちていた箒を持ち上げ、ドゥーフは首を捻った。


翌朝――。


エヌマエルとフィカス、セプテムの三人は部屋でくつろいでいた。


昨日のお話、どういう意味だったのかな?


エヌマエルが国王と賢者の会話について考えているとドアが突然開いた。



「よぉテメェら。話がある。」



「わひゅっ!?」



考えていた最中に本人の登場により、エヌマエルは悲鳴のような声を上げてしまった。



「エヌマエル……あんた、どうしたの?」



「大丈夫?」



「あっはい。大丈夫です。」



心配してくれた二人に謝りながら、エヌマエルは意識して笑顔をつくる。


昨日のこと、隠しておかないと……!



「それでドゥーフ、どうしたの?」



「今日の仕事は冒険クエストだ。この俺に同行してもらうことになったからな。とっとと支度しろ。」



「はいはい。ちょっと待っててね。」



フィカスは椅子から立ち上がり、ベッドに置いてある小剣を掴んだ。


――結局、昨日はそんなに稽古が捗らなかった。でも……。


今日、実戦が出来るというのなら丁度いい。むしろ実戦でしか気付けない点もあるはず。実践に勝る練習なし、だ。



「それで、どこに行くの?」



身支度を終え、廊下を歩きながらフィカスは尋ねた。



「町から離れた地点にある洞窟――氷穴ってやつだな。そこで巨大な竜を見たっつー報告があったんだとよ。それの調査だ。メンドくせぇな。」



「氷穴……それって、氷の洞窟ってこと?」



城の裏道を通り、町には出ずにそのまま外へと出る。



「簡単に言うとそうね。季節に関わらず氷まみれの洞窟よ。」



「へぇ~……。」



冒険者を始めたばっかの頃に行った、火山の洞窟とは正反対みたいなところかな?



「というか、賢者のあんたが駆り出されるって、相当危険なクエストなんじゃないの?」



「ハッ!退屈しのぎには丁度いいクエストってだけだ。俺がいる限り、危険なんてもんはねぇよ!」



そう言ってドゥーフは不敵に笑った。

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