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マジックセンス  作者: 金屋周
第十二章:集結
165/222

161:稽古

「……。」



フィカスとエヌマエルが出掛けてから数日後――。


よく晴れた休日に、城の中庭には金属がぶつかり合う音が響いていた。



「――ぐっ!」



「ハッ!これで俺の十連勝……くらいか?ったく相手になんねぇな。」



フィカスの手から小剣が弾き飛ばされ、ドゥーフが勝利宣言とともに槍を突きつけた。


セプテムは腕を組み、何も言わずにその様子を見ていた。


――今ではすっかりドゥーフの圧勝が増えてきている。


あの時勝てたのは、あくまでパーティとして戦ったから。個の実力としては、やはり”賢者”の方が何枚も上手だ。



「オイ!とっとと立て、次だ。」



「待って!少し……休ませて。」



「……しょうがねぇな。」



ドゥーフは頭を掻き、乱暴に芝の上に座った。


フィカスは呼吸を荒くしながら小剣を拾い上げ、同じく芝の上に腰を下ろした。



「つーか前々から思ってたが、お前に戦闘を教えた奴はどんな奴だ?剣士か?」



「え、いや……違うけど。」



「ハァ?」



ドゥーフは素っ頓狂な声を出し、槍で地面をつつく。



「じゃあ駄目な奴だったってことかよ?よくそれで生き延びてこれたもんだなオイ。」



「……どういう意味?」



フィカスの声が少し低くなった。


ドゥーフの口の悪さを知っているとはいえ、仲間のことを悪く言われて何も感じない彼ではない。



「まったく……。」



セプテムは溜め息を吐き、言い争いになる前にと動き出した。



「早い話が、お前に合ってねぇんだよ。戦闘スタイルがな。」



「――えっ?」



その言葉を聞いて、セプテムは思わず歩みを止めた。



「剣術が攻撃的過ぎる。お前の性格に合ってねぇ。だから剣士かなんかが教えたもんだと思ったが……違ったみてぇだな。ま、悪く思うなよ。悪いのはその剣術を教えた奴と、それを疑わずに使い続けたお前自身だ。」



「……。」



フィカスは握る己の小剣を見つめる。


――他の誰にも言われなかったことだ。だけど……。


納得出来る指摘でもある……と思う。今の戦闘スタイルのベースは、サンナに教わった立ち回りだ。けれど、相手によっては相性が悪い……別の型が有効な場面もあったと思える。



「そこを変えろとは言わねぇよ。だがよ、現状を変えたいって思うなら、何かしら変える必要があるんじゃねぇの?」



そう言ってドゥーフは立ちあがった。



「それともう一つ、忘我状態フローの時だが……ペース配分を意識してみろ。んじゃ、国王から呼ばれてたからな。俺はもう行く。」



「あ……うん……。」



――ペース配分……か。


そう言えば、前にも忘我状態フローについて言われたな。


僕は……どうしたらいい?



「……随分と親切なのね。」



「――気に入ったってのもあるからな。だが、タダで強くしてやるほど俺はお人よしじゃねぇよ。あとはテメェが何とかしろ。」



「――ええ。そうね。」



城内に入っていくドゥーフの後ろ姿を見送った後、セプテムはフィカスの傍に寄った。



「サンナの戦い方が間違ってるってわけじゃないと思うのよ。」



セプテムはレグヌムから逃亡した道中、フィカスと色々な話をした。その時にフィカスがサンナから武器の扱い等について教わっていたことを知った。


サンナにそんな面倒見の良さがあることに驚きつつ、それと同時に納得した。



「ただ……あんたは、それに拘る必要はないんじゃないかしら?」



フィカスの性格的に、とにかく攻撃に出るサンナの剣術は噛み合っていないと言わざるをえない。芯から好戦的なサンナならともかく、冷静かつ慎重なフィカスに同じことをやらせても同じ成果は得られない。



「うん……多分、そういうことなんだと思う。でも……大きく変えたくはないかなって思うんだ。」



「そう……なら、やることは決まっているわね。」



本人の意思がそうであるなら、出来ることはただ一つ――。



「――改良していくしかないわよ。」



本来、剣術とは師匠から教わり、徐々に自分の型へと消化していくものである。


フィカスはそれをしないまま、別の剣術や立ち回りを吸収していった。


その結果、器用さは抜群だがどこか突き詰められない――ある種の甘さがある戦闘スタイルとなっている。



「あんたがこれまで培ってきた経験を全て消化出来れば、それは強力な武器となるはずよ。フィカスなら……出来るはず。私も手伝うから……やるわよ!」



「――うん!ありがとう!……それと気になっていることが、もう一つあるんだけど……。」



”賢者”の言う忘我状態フローについて。



「速さが一定って言われたんだけど……どうすればいいのかな?」



正直、こちらの方が深刻であると感じていた。


切り札と言える忘我状態フローに対して、ドゥーフはすぐに慣れ対応してきた。つまり、一定層には通用しにくい能力センスであるということだ。



「ああ……それなら、多分何とかなるわ。」



「えっ?」



セプテムの明るい声に、フィカスは目を丸くした。


そんなにあっさりと……もう解決策が出てるってこと?



「ドゥーフの言葉通りの意味よ。というか、誰もがぶつかる問題だと思うし……気にする必要なんてないわよ?訓練は必要だけど……なんとかなるわ。」



そう言ってセプテムはウィンクした。

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