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マジックセンス  作者: 金屋周
第十二章:集結
164/222

160:星空

太陽が顔を隠し、月が町を照らすようになる時間――。


僕とエヌマエルは長い螺旋階段を上っていた。


石に囲まれた狭い空間で、同じようにグルグルとひたすら歩く。


その感覚は奇妙というか、段々とよく分からなくなってくる感じがあった。



「ねぇ……どこまで上がるの?」



途中、外に出られるであろう扉があったが、先を歩くエヌマエルはそれを無視していた。


仕事終わりのトレーニングにしてはハードな気もする。もしかして……。



「はい。最上階まで上がりますよ。」



そう答える彼女の声は少し荒かった。


……疲れてるんだ。やっぱり。



「……なんで最上階まで行くの?」



やはり、そこに何かあるってことになるのだろうか?



「見たい……いえ、見せたいものがあるんです。」



「見せ……?」



「あっ!着いたみたいですよ!」



急に大声を出して立ち止まり、歩く流れを僕は止められず彼女の腰に鼻をぶつけた。


ギイィ……と重たい音を立て、扉がゆっくりと開かれていく。


音からして、錆びついているみたいだ。長い間、誰もこの扉を使用していなかったのだろう。



「ほらフィカスさん!見てください!」



月明かりが差し込んでくる。


外の澄んだ空気が身体に入ってくる。



「わぁ……!」



見上げれば、そこには満天の星空。


今まで見たどの星空よりも広く、明るく、近い。


手を伸ばせば掴めそうに思えてしまうほど、近く壮大な星空。威圧的とまで感じてしまう、煌びやかで広い夜空だ。



「ふっふーん。どうです?この景色?」



「うん……凄い……!」



ただそれだけしか言えない。それほどまでに壮観な光景だ。


背後から錆びついた音がして、扉が閉じ僅かな振動が響いた。


あれ……?なんで今……。



「でしょう?ここは知る人ぞ知る、有名なスポットなんだそうです。」



町を見渡せる高い塔の頂上。


そこから見下ろす町灯りと満天の星空。


うん。有名と言われるのも分かる。それだけ綺麗な光景だ。



「あっ……流れ星……!」



キラリと尾を引く輝きがあった。


一瞬でそれは消えてしまったが、印象深く目に残る。



「連続で三回お願いすれば、願いが叶うって言いますよね。」



「そうなの?」



初耳な話だ。



「ジンクスっていうやつですよ?本当に何か起きるわけじゃないですよ?」



「あっそうなんだ……。」



本当の話じゃなかったのか。


特別な魔法とかがあるのかと思っちゃった。



「フィカスさんは、流れ星のお話、聞いたことなかったんですか?」



「うん。そういう話、誰もしなかったから……。」



そう言いながら、故郷のことを、人生のことを不意に思い出していた。


そういうおまじないとか、おとぎ話とか、いわゆる非現実的な話をしてくれる人はいなかった。ただ淡々と現実的な、それでいて都合の良い話しか周囲はしてくれなかった。


皆と出会った後は、そういうのもなくなって……。



「……。」



星空の中で輝く、大きな銀色の月。


今にも落ちてきそうなほど近くて大きい。


……皆も今、どこかで同じように月を見ているのかな?



「……フィカスさん。」



エヌマエルがそっと傍に寄ってきた。



「想い人はいないって言いましたよね?」



「……?うん。」



「それなら……。」



大きな月を指差した。



「これから先、とっても!大切な人が出来たら、今みたいに月を一緒に見てあげてください。」



それで――。


エヌマエルの唇が動く。



「月が綺麗ですね。って言ってあげてください。」



どういう意味だろう?


そう思ったが、訊かないことにした。なんとなく、彼女の顔を見ていたらそう思った。



「そう言えば……。」



どうして急に二人で出掛けることにしたんだろう?


誘いを受けた時から気になっていたことを尋ねてみた。



「あっそれはですね……。」



悪戯っ子のように微笑んで、彼女は小首を傾げた。



「リラックス……してほしかったんです。」



「リラックス……?」



「はい。フィカスさん、ずっと根詰めていて……、苦しそうというか、余裕がないというか……とにかく、肩の力を抜いてほしかったんです。」



彼女は隣で優しく柔らかい表情を見せる。



「今の生活がいつまで続くか分からないですけど、生き方までずっと同じである必要なんてないんですよ?もっと楽に……良い感じに過ごしていきましょう?」



「――うん。」



自分では、いつも通りに戻ったと思っていた。


でも、どこか、気付かないだけで、いつもとは違っていたんだ。


エヌマエルはそれに気が付いて、僕のことを気遣って誘ってくれた。



「――ありがとう。」



「えへへ……お礼なんていりませんよ。」



そう言ったが、その表情は嬉しそうだった。


カララ……。


その時、後ろから石が転がったような音がした。振り向くと、扉横の壁が少し崩れていた。



「今……何かした?」



「いえ……勝手に崩れましたよ?」



急に崩れるって……古いのかな?


考えてみれば、有名なはずなのに誰も他にいないし……ん?



「ねぇエヌマエル……どういう風にここを知ったの?」



「え?どうって……ドキドキ出来る場所を教えてくださいって訊き回ったら、皆さん口をそろえてここを教えてくれましたよ?」



ドキドキ出来る場所……そういえばさっきも勝手に扉が閉じて……。



「……帰ろうか。」



「……?はい。」



ここにいたら駄目な気がする……。

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