158:手紙
セプテムは乱暴に封を切ると、しかめっ面で手紙を読み始めた。
僕はただその様子を傍で眺める。読めないのに手紙を覗いたって仕方がないからね。
「……。」
目線が下までいった、と思ったらまた上に戻って下に動き始めた。
読み直している……のかな?
「良い知らせ……と悪い知らせ……ってとこかしらね。」
「何て書いてあったの?」
セプテムは手紙をポケットにしまった。
「部屋で話すわ。」
ここでは話したくない。
口にこそしなかったが、そういうことなのだろう。雰囲気からそういう考えが伝わってきた。
僕たち三人に与えられた部屋に入り、セプテムは鍵をかけた。
「――悪い方からいくわ。」
そう前置きをして話し始めた。
「レグヌムが各国に知らせを出したわ。フィカスを捜せってね。創造魔法の使い手だから、野放しにするのは危険であり損失である。ですって。」
「……。」
ここにいる間は大丈夫なんだろうけど、それもいつまで平気いられるのか分からない。
そんな感じになっていきそうな気がした。
「ノウェム姫が各国に出された手紙の内容を完全に把握することは出来なかったみたいだけど、それでも伝えてきたってことは、想像以上に大規模なことになるかもしれないわね。」
確かな情報を得られていないのに、それを誰かに伝えるという行為は危険だ。かえって混乱を招く可能性が高いためである。
それでもノウェムがそのような手を打ってきたということは、それだけ余裕がないということなのだろう。
「そっちの手紙に関しては、この国にも届いているはずだから、後で王様に訊いてみるわ。」
「うん。分かったよ。」
状況は早めに確認しておきたい。
もしかしたら、この国を離れてまた別のところへと行くことになるのかも。
「待ちなさい。もう一つ話があるわ。」
セプテムが肩を掴んできた。
「ジギタリスからよ。」
「えっ……?」
ジギタリスから……!?
「――ノウェム姫が今、あんたを受け入れるための政策を作っている最中なんですって。だから怯える必要はない。いつかまた会おう……って書いてあるわ。」
そっか……。
待っていてくれるんだ。
仲間だから当たり前。という風に考える人もいるかもしれない。でも僕には、たとえ当然であっても、嬉しいことだった。
やっぱり口で言われると、メッセージできちんと言われると嬉しいのだ。今の自分には帰る場所があるって素晴らしい。
「喜ぶのもいいけど、そう単純な話じゃないわよ?」
「――うん。そうだね。」
帰る場所が作られつつある。
でも、それと並行して僕を捕らえようとしている政策も進められている。
「どっちが先に出来上がるか……にもよるけど、姫の作るルールよりも王の作るルールの方が影響力があるわ。だから過度な期待はしないことね。」
「そうだね……って!仕事に行かないと!」
話しているうちに、大分時間が経っていた。
「ああ……これから仕事だったのね。じゃあ、手紙の件は私に任せといて。」
「うん。よろしく!」
駆け足で廊下を行き、今日の仕事場へ。
遅刻なわけだから、その分頑張らないと。
「……明るくなった気もするけど、なんかね……。」
そう呟いてセプテムは部屋を出た。
初めて出会った頃に比べると、意思を持ち前向きになった気がする。それが良い意味にも、悪い意味にもなる気がする。
「あ、セプテムさん。休憩ですか?」
「エヌマエル……ええ。そろそろ行くわ。」
よくよく考えたら、私も仕事の途中だった。
あのぶりっ子演じるのって疲れるのよね。ホント面倒。
「それでフィカスさん、見ませんでしたか?」
「さっき出ていったわ。……それ何?」
エヌマエルが手に何か持っている。
……飲み物?
「あ、これですか?さっきドゥーフさんから貰ったんです。ファンから貰ったけどいらないからって。」
嬉しそうに手に持つ飲み物を見せてきた。
栓がしてある小さめな瓶だ。
……よく見ると、栓が少し緩い。
「……悪いこと言わないから、飲まない方が良いわよ。」
「え?何でですか?」
何でって……想像付くでしょ普通?
「そう言えば、フィカスに用があるみたいじゃない?どうしたの?」
話題を変えて誤魔化す。
こんな古典的な手が効くかしら?
「あっ……それはですね……大した用事ではないんですけど……。」
あ、効いた。
まぁエヌマエルだし、不思議じゃないわよね。
「……?どういう用なのよ?」
慌てた仕草がなんか怪しい。
「えっと……その、フィカスさんって今、大変じゃないですか。だからその……癒してあげようかなって思ってるんですけど……。」
なんでチラチラと私の顔を見ながら言うのよ。
私は嫌味な姑か!
「……そういうことなら、私は何も言わないわ。好きにしてちょうだい。」
「……!はい!ありがとうございます!」
エヌマエルの表情がパーッと明るくなった。
なんかこの子、アベリアに似てるかも。