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マジックセンス  作者: 金屋周
第十二章:集結
161/222

157:稼業

「……わっと!」



手元から小剣が弾き飛ばされた。



「ハッ!慣れれば大したことねぇな!」



あれから一週間――。


フィカスたちは雑用から冒険者用の依頼まで、幅広い仕事をこなし生計を立てていた。


そして空き時間にドゥーフに稽古をつけてもらっていた。



忘我状態フローってのも弱点が丸分かりじゃねぇか!よくもまぁそれで勇者候補にまで漕ぎ着けたものだな。」



「……。」



ドゥーフの物言いにムッとするが、何も言い返せない。


事実、フィカスは忘我状態フローに入った状態で負けた。


うーん……この感覚には慣れてきたんだけどなぁ……。


何度か繰り返すうちに、フィカスは忘我状態フローに入るコツが掴めてきていた。



「まっ早い話が、その速さにこの俺が慣れたってことだ。それに関しては悔しがる必要はねぇよ。」



俺より強いわけがねぇからな。


とドゥーフは付け加えた。



「……慣れたって、どういうこと?」



ドゥーフは槍を地面に突き刺した。



「そのままの意味だ。お前の速度に慣れたってだけだ。」



初回こそ互角以上に渡り合えたが、それ以降はドゥーフが常に上手だった。


今となっては完全にドゥーフが上回っている。



「つうか、これじゃ俺の訓練にならねぇよ。もっと強くなれよ?」



「そのための特訓でしょ?……ふぅ。」



小剣を鞘に収め、フィカスは緊張を解くように息を吐いた。



「……で、慣れたって話、具体的にはどういう意味なの?」



「――てめぇの速度が一定ってことだ。いくら速くても、一定だったらどうとでも出来るってことだ。」



速度が一定……か。


意識したことなかったけど、”賢者”が言うのなら、そうなのだろう。



「どうやってそれで”勇者”に勝ったんだ?あ、そうか……数でごり押ししたってことか。」



「うるさいなぁ……あ、そろそろ行くよ。」



そろそろ仕事に戻る時間だ。言葉の意味は後で深く考えよう。



「そうか。なら俺も町にでも行くか。」



「喧嘩売らないでよ?」



「そいつは約束出来ねぇなぁ。」



ドゥーフ相手に遠慮とか、そういうのは何故かなかった。


口が悪いって知っているからこそ、こちらもそれ相応の態度になっているだけか。それとも今は歳の近い同性が周りにいないからか。


理由はよく分からないけど、こういう関係も中々心地よい気がする。



「あ、フィカスさん。休憩は終わりですか?」



「うん。エヌマエルは?」



「私はこの後です。頑張ってくださいね。」



彼女は主に城内の掃除を担当していた。


城はとてつもなく広いので、人手はいくらでも欲しいんだそうだ。



「うん、ありがと。エヌマエルも頑張ってね。」



僕の主な仕事は道具の創造。時々冒険者。


ドゥーフ曰く、町に外国人が増えてきたそうだ。多分、僕を捜しに来た人たちだ。


今は逃亡の身。だから外に出る機会は最初の方しかなかった。今では城内で出来る仕事しかやっていない。



「あ、いた。フィカス殿、お手紙がきていますぞ。」



「手紙?」



同僚から手紙を受け取るも、首を傾げる。


誰からだろう?そもそも、僕がここにいるって誰かに知られてるってことだよね?


……何で逆に今、僕は見つかってないんだ?



「ああ、そうそう。君宛てだけど、国に対して届いたそうだ。」



「ああ……そういうこと……どうも、ありがとう。」



僕がフェルティ国(ここ)にいるってことは知られてないはずだから、きっと色んな国に同じ手紙が送られている……って考えるのが自然かな。


文字は読めないけど……差出人の名前らしき文字が長い気がする。苗字を持っている人ってなると、大分限られてくるかな。



「じゃあこれを……。」



セプテムのところに持っていこう。エヌマエルはこれから休憩って言ってたし、その時間を僕のために削ってもらうっていうのは気が引ける。


それでセプテムは……今日はレストラン?って言うのかな?お城の食事が出来るスペースで働くって言ってた気がする。


そこは高いけど、お金を払えば誰でも利用出来るそうだ。とは言っても、冒険者にはとても払える額じゃないらしい。



「あ……いた。」



そこに行ってみると、お客さんと話をしている姿があった。



「はい!そのデザートは私が作ったんです。美味しいですか?そう言っていただけると、とても幸せです。うふふ。ありがとうございます。」



「セプテム、ちょっといいかな?」



「はーい!それでは失礼しますね。」



笑顔でお辞儀をし、セプテムはこちらへと歩いてきた。


そして僕の傍をそのまま通り過ぎ、部屋の外へと向かう。



「で……何の用よ?」



部屋を出た途端、いつものセプテムに戻った。さっきよりも声のトーンが低い。



「手紙が来たんだ……というかさっきのって……?」



「何よ?接客業やってたんだから、あれくらい出来て当然よ?あとあんたも知ってるでしょうが。」



パーティに加わる前セプテムは普段、喫茶店で働いていた。


その経験が生きているということだろう。



「愛想良く振る舞うのは当然なのよ。で、手紙って誰から?」



「それが分からないから、ここに来たんだ。これ。」



手紙を手渡す。


セプテムはそれをひっくり返したりして眺める。



「ふーん……高そうな紙ね……差出人は……ベルラトール……ノウェム姫からよ、これ。」



姫様からの手紙?


そう言えば、姫様はどういう風に考えているんだろう?やっぱり、父親であるレグヌム国王と同じような感じなのかな。


一体……何が書いてあるんだ?

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