15:夜明け
夜明けを迎えるとともに、フィカスは目を覚ました。身体にまだ、稽古で受けた痛みが残っていたせいかもしれない。
ジギタリスに回復してもらえば良かった……。
魔法による治療とは縁のない世界で生きてきたため、怪我した時にそのことを失念していた。
「あら、フィーくん。おはよ~。」
「おはよう、アベリア。早いね。」
アベリアもベッドから起きていた。
「うん。私はね、いつもこれくらいの時間に目が覚めるの。フィーくんも?」
その質問にフィカスは首を横に振った。
「ううん。僕は何だか寝付けなくて……いつもはもう少し寝ているんだけど。」
「そうなの?それじゃあ、少しお散歩でもしましょうか。」
お互いに背を向けて着替え、物音を立てぬよう静かに部屋を出た。
ギルドの外に出ると、町はまだ寝起きのようだ。
働き者の承認や配達人が通りを駆けていくが、それ以外に人影はない。太陽も顔を覗かせたばかりで、朝靄がまだ残っている。
「フィーくんは冒険者になる前、何をしていたの?」
「家の手伝い……農業をやってたよ。……アベリアは?」
彼女の素性をまだ全然知らない。そう思って訊いてみた。
「私はね~……私もフィーくんと一緒。お家のお手伝いばかりやってたわ~。」
「そっか。」
具体的に何を?とは訊けなかった。もっとアベリアという人物を知ってから、もっと親しくなった時にまた、訊いてみよう。
「あ、あそこのお店。」
とある喫茶店をアベリアは指さした。ヴェイトス・オムニスと書かれた看板がかかっている。
「ちょっと高いけど、美味しいって評判みたいなの。今度、皆で行きましょう?」
「うん。行こうか。」
ちょっと高いって、どれくらいだろう?
頷いたものの、フィカスは内心不安になった。パーティーに無理な金額である店を紹介するとは思えないが、天然のアベリアにはその可能性があることを否定しきれない。
「……そろそろ、戻ろっか。」
空を見上げると、晴天に映える太陽が徐々に高度を上げてきていた。
町の人たちも起きだしたようで少しずつ賑わい始め、いつもの町の調子に戻ってきている。
「そうね~。戻って朝ごはんにしましょうか~。」
宿泊部屋に帰ると、サンナが起きていて着替えを済ませていた。
「早いですね。さて、朝食にしましょうか。」
まだ眠っているジギタリスを放っておいて、サンナは部屋を出ていった。
「……起こしてから、僕たちも行こっか。」
「そうね~。」
結論から言うと、ジギタリスを起こすのに時間がかかった。彼はどうやら、朝が苦手らしい。
眠たげなジギタリスを連れて朝食のテーブルに行くと、サンナが既に食事を開始していた。
「今日も少し稽古をして、昼からは自由行動にしようかと。睡眠はとってくださいね。」
「なんで睡眠なんだ?」
まだ元気のないジギタリス。
「クエスト開始は夜中です。それまでずっと起きてるつもりですか?」
「おう。その通りだな。」
お昼からは自由行動かぁ……何をしようかな?
フィカスはパンを頬張りながら、今日の予定を立てようとするが、何も思いつかない。
この町に来てからまだ数日。この町に何があるのか、そもそもどれくらいの規模なのか。まだ何も知らないのだ。
だから、町の散策に時間を充てようかとも思ったが、クエスト前に体力をむやみに使うのもどうかと思う。
もっと楽でためになるような……。
そこまで考えて、一つ思いついた。うってつけの場所がある。
図書館だ。