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マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
159/222

156:久々

世の中には、三日坊主という言葉がある――。


このレグヌム城下町もその例に漏れず、一般人はすっかりいつもの日常を取り戻していた。



「いや~全然、情報が入ってこねぇな!」



頭を掻き、ジギタリスはガハハ!と笑った。



「笑い事ではないだろう……しかしどうする?俺の使える伝手はもうないぞ?」



商人として先輩であり、パーティのまとめ役であるカイドウは溜め息を吐いた。


冒険者としては頼りになるが、それ以外ではジギタリスはまだまだ不安が多い。



「やはり一度ギルドに戻り、そこで情報収集するべきではないですか?」



カイドウの弟であり、同じく商人であるカナメは冷静にそう提案した。


まだ声変わりしておらず、幼いがその平静さと思考力は大人顔負けだ。



「おう!やっぱそうすっか!……って俺が判断していいのか?カイドウ?」



「冒険者としてはお前が一番、経験を積んでいる。その判断に基本は従うさ。」



「基本はって……。」



どうせなら、いつでも従ってくれた方が気持ちいいもんなのに。



「勿論、間違っていると思った時には反対する。そういうことだ。何せ、俺は人生の先輩であるわけだからな。」



「おう!確かにな!」



いつの間にか止まっていた足を動かし、三人は町のギルドへと向かった。


フィカスの捜索で冒険者の数は大分少ないが、それでも一定数はそこにいるはずだ。訊き込みをするにはそれで充分だ。



「あ!見つけました!」



「ん?」



いざギルドに入ろうとしたその時、金髪の女性が駆け寄ってきた。



「えっと……?」



誰だ?どこかで会ったことがあるのか……ん?


見たことある顔だ。でも、どこで会ったかは思い出せない。



「失礼、貴方は?」



カイドウが一歩前に出、女性にそう尋ねた。



「失礼しました。ジギタリスさんしか、私を知りませんよね。」



やっぱり会ったことがあるのか。でも誰だっけ?


ジギタリスは必死に頭を捻るが、どうも正解が浮かんでこない。



「では改めて……私は隣町のギルドに勤めております。コールと申します。」



「カイドウです。こちらは弟のカナメです。」



「はじめまして。コールさん。」



ああ……!


受付の姉ちゃんか!最近会ってないからど忘れしてたぜ!



「それで、どういったご用件で?」



隣町からわざわざここまで来ているのだ。軽い用事ではないだろう。



「はい。フィカスのお仲間――その方とお会いしたいという方がいらっしゃいます。この後、お時間はよろしいでしょうか?」



「はい。いいですよ。」



カイドウは頷き、確認するようにジギタリスの顔を見た。


ジギタリスもまた頷き返す。



「ありがとうございます。それでは、こちらにお願いします。」



コールに連れられ、一行はギルドから離れる。



「でも、俺に会いたいってどんな奴なんだ?」



フィカスのことで話があるってことなんだろうが、面と向かって話し合うような奴、いたか?



「それは……すみません。ここでは言えないんです。」



コールは困ったように笑い、とある建物の前で歩みを止めた。



「こちらです。」



「ここは……!」



カイドウとカナメの目が輝いた。


城下町でも評判のレストランだ。格式高く、上流階級でもなければ滅多に入れないような店だ。


入店すると、落ち着いた雰囲気ながら高級感を漂わせる空気があった。



「待ち合わせです。ベルラトールという名の者が来店していると思います。」



入り口付近に立っていたスタッフは何か紙をチェックし、コールに奥側の席を示した。



「あちらでございます。」



「ありがとうございます。皆さん、参りましょう。」



「はい。」



最後尾を歩き、ジギタリスはまた首を捻った。


ベルラトール……それってまさか……。



「お待たせしました。ノウェムさん。」



「ご苦労様。コール。さ、皆さん、座ってちょうだい。」



凛々しい顔の、アッシュグレーの髪をした美しい女性。


そしてベルラトールという名前。



「ひ、姫様っ!?」



カイドウたち兄弟は同時に叫んだ。



「ども、姫様。」



反対に落ち着いたジギタリス。


まぁ最近、会ったばかりだしな。カイドウとカナメは会ったことないだろうし、驚いても全然不思議じゃないけど。



「また会えて嬉しいわ、ジギタリス。それで――。」



ノウェムは咳払いを一つし、真面目な表情を作った。



「早速だけど本題よ。勿論、フィカスについてのね。あ、ちなみに、盗み聞きするような輩は周りにいないから、安心してね。」



追い払っておいたから、とノウェムは付け加えた。


……一体、何をしたんだ?



「――父と話したの。どうしてフィカスを指名手配扱いするのかについて。」



その答えは、危険な思想を持っているから、であった。



「けれど、それでは納得出来ないわ。思想を持つだけなら自由なはずだし、さらに彼は国を救った存在。讃えるべきであって、敵視すべきではないわ。」



そのことについては尋ねなかったが、理由は見当が付いた。


創造魔法という強力な存在を野放しにしておきたくなかったのだろう。何かされる前に始末する、そういう結論に達したのだろう。



「けれど、その結論を出すのは早計過ぎたのよ。考えてみて、もし彼が他国の戦力となったらどうなるか?」



称号を授けられるほどの実力を持つ者が他国の戦力となれば――。



「国力として大きく劣る、ということですか?」



「ええ。もし裏切られたら、戦争になったら、勇者の欠けた今のレグヌムでは勝てないの。だから、彼を呼び戻す必要がある。」



一度言葉を区切り、ノウェムはジギタリスを見た。



「そこで貴方よ。国として各国に手紙を出すわ。フィカス宛てのね。彼が帰ってきたくなるような文面を一緒に考えてくれるかしら?」

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