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マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
157/222

154:魔人・3

「……いきますよ、エレジーナ。」



「うん。やろうかー。」



サンナは短く息を吐くと、地面を強く蹴って大きく前進した。


――奴の魔法は、恐らく変身。それを多用される前に……。



「ケリを着ける!」



アズフは引かず、刀でナイフと応戦する。



「……。」



魔人は表情を一切変えない。まだそこまで追い詰めていないということだろう。


しかし、それでも構わない。


これまでを見たところ、変身には一瞬の時間がかかる。その一瞬の猶予を与えないよう立ち回れば脅威ではない。


エレジーナはアズフの背後へと再び回り込み、同じくナイフで斬りかかる。



「おっと……これは大変だ。」



魔人は刀を左手へと持ち替えた。そして腰に差してある得物を引き抜く。


厚く四角い刃をした短めの武器――ナタだ。


身体を半回転させ、左手の刀でサンナの、右手の鉈でエレジーナの相手をする。



「ぐっ……!」



押し切れない……!


二人がかりで、さらに相手は片手で戦っているというのに、隙を見つけることが出来ない。完全に対応されている。


何でだ?何が駄目なんだ?


サンナは顔を歪ませ、さらにナイフを振るスピードを上げていく。



「う~ん……。」



アズフは正面を見たまま、右手側に違和感を覚えた。


手を抜いている気がする……。


同時にエレジーナもまた唸っていた。


――どうしよっかなぁ……。



「このっ……!」



何故かアズフは顔を動かさずに得物を振ることが出来ている。こちらの立ち位置を変えることによって攻略出来そうな気もするが、エレジーナはその場から動かない。



「エレジーナッ!何で動かないッ!?」



思わずサンナは怒鳴った。


現状を打破するには、二人で連携していく必要がある。なのに彼女エレジーナはそうしない。



「うーん……どうしようかねぇー……。」



駄目だ。


この人に頼ろうとするのが間違いなんだ。


私独りで戦わないと……!



「……良い眼だね、意思の宿った。……羨ましい。」



アズフは右腕をエレジーナの腕に絡ませ、外へと放った。



「……っと。」



エレジーナはそれを甘んじて受けた。今は自分が動く時ではない。


サンナちゃんを見ていよう。



「じゃあ、本気で相手をするよ。」



そう宣言すると魔人は、刀を鞘へと収めた。


そのまま左手の鉈で攻撃を開始する。


突き出されたナイフを鉈の側面に沿って逸らし、柄で腹を突く。



「ぐ……ッの……!」



大したダメージではない。


前傾になった体勢を立て戻し、サンナは腕を引きながら横へと振るう。


――鉈で防ぐ時間はない。攻撃される前に届けば……!


互いに逆の手で武器を使用していた場合、互いに防御は難しく攻撃が有効となる。何故なら通常、右利きを想定した訓練を行う。そのため、片方が左手に武器を持っていた場合、それはイレギュラーであり経験を生かすことが出来ない。


――だからこそ、これを防ぐことは出来ない!



「……ほい。」



アズフは想定通り、鉈で防がなかった。


ただ、右腕を突き出して刃を受け止めた。



「……は?」



何をやっている?進んで腕を刃に?


腕をそのまま押し出し、ナイフを喰いこませる。


血が流れ、骨にナイフが当たる感触がした。



「がはッ……!!」



動揺した次の瞬間、重い一撃がサンナの腹に入っていた。


口から体液を吐き出し、腹を押さえてうずくまる。



「がっ……ああぁぁっ……!」



目の前に魔人の鉈が落ちている。気を取られた一瞬に捨てていたのか。



「あーこれは決まった?私の勝ち……でいいかな?」



「……こ……の……。」



よろよろとサンナは身体を起こす。



「無理はする必要ないよ。」



――本気で殴ったのに、立とうとするのは凄いな……ん?


急に腕を振り上げてきた。その先には何かの輝きが……。



「おっと。」



右手でアズフはそれを受け止めた。


ナイフだ。……なるほど。ブーツに一本隠していたのか。



「くっ……そ……!」



不意を突いた一撃が止められた。


右手を深く斬ったが、魔人こいつには意味がない。怪我を恐れずに腕でナイフを受け止めるような奴だ。この程度、軽微な負傷なのだろう。



「面白いね。でもつまらない。」



そう言う魔人の身体が砂のように崩れていき、ワーウルフの姿となった。



「ぐっ……うぅ……。」



……ここまでか。


どうして私は勝てないんだ?暗殺者アサシンとして独りで活動していた頃は、毎日普通に勝っていた。なのに、ここ最近、ずっと勝てていない。


涙が零れた。


何で?何が悪い?私に何が足りないんだ?



「はいはーい。降参でーす。」



エレジーナが二人の間に割り込んだ。


いつの間にか応急手当を施された、マカナとウルミを両脇に抱えている。



「了解。私の勝ちだね。」



アズフはあっさりと二人から離れ、元の女性の姿へと戻った。



「さてと……。」



エレジーナはサンナと向かい合う。



「サンナちゃん。言うことがあるんだ。」

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