14:前夜
「ふぅ~……疲れた……。」
「おう!お疲れさん!」
浴場。フィカスとジギタリスはどっぷりと湯船に浸かっていた。
「全然敵わなかった……。」
フィカスは痣ができた自分の腕を見る。結局、あの後もサンナとの稽古は続いたが、攻撃を当てることは一度もできなかった。
「気にすんなって!いきなり強くなるなんてこと、あり得ねぇんだからよ!」
「そりゃあ……そうだけど……。」
サンナの動きをよく観察して、自分なりにものにしたつもりだった。それでも、一発も当てられなかったということは、まだまだ学習が足りないのか、はたまた自分にセンスがないのか。
「明日の夜……だったよね?大丈夫かなぁ僕。」
とても戦力になれるとは思えない。足を引っ張る未来しか想像できない。
「大丈夫だろ。そもそも、メインで戦うのはサンナだろ。俺たちは出口を塞いでりゃいいんじゃねぇの?」
「そういうわけには……。」
パーティーである以上、誰かに頼りきりで自分は蚊帳の外、みたいな事態は避けたいと思っていた。ましてや、自分はパーティーのリーダーだ。なおさら、任せっきりといういのは避けたい。
「別にいいんじゃねぇか?魔法使いが後衛で援護だけしていても、怒る奴なんかいねぇと思うしよ。フィカスが戦いに参加しなかったとしても、誰も怒らねぇって。大体、素人の俺たちが加わったぐらいで勝てる相手なら、誰も手を焼かないって!だから大丈夫だ!」
励ましになっているかはともかく、ジギタリスが励まそうとしてくれていることはよく分かった。
「うん。そうだよね……ありがとう。」
風呂から上がり、着替えて宿泊部屋へと移動。
「待ってましたよ。」
寝間着に着替えたサンナとアベリアがベッドに座っていた。
「それじゃあ、会議にしましょ~。」
「会議?」
昼にもやったのに?
「ええ。と言っても、配置くらいですがね。部屋の見取り図を貰ったのですが……。」
サンナは大きな紙を皆に見せる。美術館の見取り図のようだ。
「私たちが守る場所はここ。」
見取り図のど真ん中、四角い中くらいの部屋を指さした。
四方に通路があり、中央にガラスケース、つまり今回予告されたネックレスが置いてあるようだ。
「見ての通り、部屋に通じる通路が四つあります。一番侵入に使われると思われるのが、南の通路。入り口から真っ直ぐ歩いて来れます。」
美術館の入り口から指で道順をなぞる。
「ここを守るってことか?」
「いえ。逆です。ここだけを空けます。」
「どういうこと?」
サンナは他の通路を順番に指していく。
「他の通路を一人ずつ担当して見張ってもらいます。南から侵入するのが手っ取り早いことは、怪盗も分かっていることでしょう。裏をかかれた時に備え、他に見張りを置いた方がいい。」
フィカスは黙って頷いた。
相手は一人。姿を確認してから全員で対応しても遅くはないはず。だったら、不意を突かれないようにした方が賢い。
「私はガラスケースの前に立ち、南側を見張ります。三人はそれぞれ、通路の死角に隠れて、足音がしたら攻撃してください。」
「もし怪盗じゃなかったら、どうすんだ?」
「他の者が来るとは思えないので、大丈夫でしょう。」
急に投げやりになったサンナに苦笑してしまった。そういうリスクを考えないのはサンナの性格か、それともアサシンだからか。
「さて……会議はこれくらいにして、もう寝ますか。」
船をこぎ出したアベリアを見て、作戦会議はこれにて終了した。