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マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
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146:コロシアム

町の端にある石造りのコロシアム――そこには既に大勢の観客が集まっていた。



「短時間で、よくも集まったものだ。」



闘技場の舞台に立ち、ネモフィラは客席を見渡す。


あれからまだ小一時間しか経っていないというのに、満席に近い状況だ。当然、国王も見に来ている。



「それだけ、アギオスが人気ってことだよね。」



反対側に立ち、籠手の調整をしている彼女を見やる。


まだ幼さの残る彼女がこの国で一番強く、一番の人気がある。この現状を目の当たりにしても、中々信じられない事実だ。


その理由は簡単。細身で筋肉が付いているように見えないためだ。


アベリアやセプテムも細身だが、それ以上の細さである。



「――さて、そろそろ始めようか。」



そうこうしているうちに、アギオスがこちらに歩いてきた。



「国王を納得させるためだ。本気でいく。貴方たちも本気でかかってきてくれ。」



「いいけど……ホントにいいわけ?」



ラフマが疑うように問いかけた。


いくら国最強の存在でも、四人を同時に相手にするのは無理があると思える。



「勿論だとも。本気で貴方たちの強さを示さねば意味がないからな。回復魔法の使い手も来ているはずだ。死なせなければ何をしても良い、というルールでいこう。」



死人を蘇らせる魔法は存在しないが、傷を癒す魔法はある。それさえ確保出来ていれば、激しい勝負でも多少は無理が効く。



「――分かった。それでいくぞ。」



「うむ。決まりだな。では、私は反対側に戻る。合図は……誰かが行うだろう。」



……その辺の手筈は知らないんだ。



「で、ネモフィラくん。どういくんだい?」



アギオスの後ろ姿を見ながら、リコリスはそう訊いた。



「……奴の魔法は未知数だ。」



強盗の魔法を掻き消していたが、あれだけでは具体的にどういった魔法なのか分からない。


それを探るという意味でも、慎重に攻撃を仕掛ける必要がある。



「だから、まずは俺が炎をぶつける。」



「効かなかったら?」



「まず効かないだろうな。だから、お前たち三人がそれぞれ仕掛けろ。俺は牽制に回る。」



四人でそれぞれの得意な攻撃をすれば、どれかは有効なはずだ。


まずはその有効な攻撃を見つける。



「要は突っ込めってことでしょ?そーいうのなら任せとけって!」



「ええ、私たちに任せて!」



ラフマは基本的に単純だが、だからこそ未知を相手にしても臆することはない。


――各々の強みを出していけば……勝てる。



「観客の皆様!大変長らくお待たせしました。ただいまより、我が国の誇る至宝・聖人アギオス対西大陸から来た冒険者パーティとの試合を行います!」



こっちの紹介、テキトーだなぁ。


まぁ聖人と比べられちゃしょうがないよね。



「それでは……試合開始ィ!!」



「喰らえ!」



開幕と同時にネモフィラが劫火を放った。


前方が劫火に包まれ、それ以外に何も見えなくなる。ネモフィラの最高火力だ。



「え……本当に大丈夫?」



効かないのを前提とした攻撃だが、もし効いてしまっていたら……。



「……いや。」



――手ごたえがないな。


鉄杖を通して伝わる感触に重みがない。命中していない。なにより……。



「客の動揺がない。だから奴は――。」



炎を収めると、右手を前にかざしたアギオスが立っていた。


――無事か。やはりな。



「うむ。良い火力だ。昨日の奴とは明らかに違う。」



聖人は無傷。さらに余裕が感じ取れる。



「流石と言うべきか。やはり鍛えられている者の……おっと!」



アベリアが跳び出し、肉体強化のかかった拳を突き出した。


が……。


アギオスはそれを片手で軽く受け止めた。



「……えっ!?」



何気ない動作で止められ、アベリアは目を見開いた。


手加減したつもりはない。全力の一撃がこうもあっさり止められるものなのか。



「――初めて見る魔法だ。」



掴まれた拳にかかる力が強まっていく。


アベリアは危険を察知し退こうとしたが、アギオスの方が一瞬早かった。


物凄い力――己と同等の力で押され、アベリアは後方に勢いよく吹っ飛びコロシアムの壁に激突した。



「なっ!?大丈夫!?」



リコリスは慌てて駆け寄る。


かなり派手にぶつかったけど……。



「……え、ええ。平気よ。」



肉体強化の魔法によって、全身を強化している。これしきの衝撃では怪我にはならない。



「む?かなりの硬度だな。そして次は――。」



「あたしだ!」



ラフマが跳躍し、空中からその腕を、爪を振るった。


白い衝撃波が発生し、アギオスの身体を裂こうと襲いかかる。



「……。」



聖人はラフマを一瞬眺めた後、この試合で初めて大きく動いた。


前方へと駆け出し、衝撃波の下を掻い潜って敵陣へと切り込む。


――ラフマは無視するのか?


一番単純だし、後回しでも問題ないってことかな?



「なら、僕相手はどうするのかな?」



ナイフを引き抜き、リコリスが前に立ち塞がる。



「……。」



二刀流ではないのか?


リコリス腰にはまだ数本の鞘がある。だというのに抜いたのは一本のみ。


関係のないことだが。


アギオスが拳を固め、それを振ろうとした瞬間――。



「……ッ!」



リコリスの身体が半透明になり、拳がその身体をすり抜けた。


……魔法ではないな。特異体質か?



「……あんまり驚いてないね。」



幽霊を見る体験なんて早々ないと思うんだけど。


アギオスの背後に回ったところで実体化し、手に持つナイフを背中に突き刺す。


つもりだったが、ナイフは空を斬った。


聖人は右で出ながら回転し、ナイフを躱すと同時に腕を伸ばし、籠手でこめかみ目がけて腕を振るってきた。



「リコリス!」



「了解!」



ネモフィラの声を聞き、リコリスはその場から動かずに霊体化した。


その直後、劫火が再び聖人を襲った。

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