表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
147/222

144:聖人

聖人か……それってつまり、この国で一番強いってことだよね。特別な称号を持っているわけだし。


リコリスは改めてアギオスを観察する。


……やっぱり、強そうには見えないなぁ。



「それでだが、その人捜しについてなら、私が国王に掛け合おうか?」



「いや……そこまではしなくていい……かな?」



たしかにそうした方が手っ取り早いだろうが、そうすることによって弊害も生まれる。


やるべきかやらないべきか……どちらが良いかは分からないが、分からないならやらない方が安全だ。



「そうか。では、他に私に何か出来ることはあるか?」



「あの……どうしてそこまで私たちに?」



「何かおかしいだろうか?」



アベリアの問いかけに、アギオスは不思議そうに首を傾げた。



「困っている者がいるなら手助けをする。それだけの話だ。」



ああ……そういうことか。


この少女にとって、人助けは当然のことであり、それに対する損得勘定がない。


だから聖人と呼ばれる存在になっているのだろう。


この人なら……。



「……僕たちのことを助けてくれないかな?」



詳しい事情は……本当のところが分からないから、僕たちはフィカスくんを捜している。


どうして国から追われる身になったのかを訊き出すためだ。


そこにもし……陰謀めいた何かがあったのなら、彼に協力して然るべきだ。その時が来ることを考えると、一人でも多くの仲間が欲しい。



「うむ。勿論助けよう。」



「ありがとう。」



――聖人と呼ばれる実力レベルなら尚更だ。



「で、具体的には何をすれば良いのだ?」



「うん。まずは……換金だね。」



顔を上げて思い出した。


そもそも、銀行に来たのは換金するためだ。



「……?うむ。分かった。」



で、次は約束通りお菓子を露天商で買って、ついでに観光もして……。


この楽園と呼ばれる国を満喫し、遊び疲れた頃にはすっかり日も落ち、辺りは薄暗くなっていた。



「いや~疲れた疲れた!次はどこ行く?」



「ラフマは元気だねぇ。僕は疲れたから宿に行きたいな。」



「えー?夜には夜の何かがあるだろきっと。なのにもう宿?ねぇアベリア?」



「そうね~もっと遊んでもいいんじゃないかしら?」



体力お化けの二人に合わせていたら、こっちがもたないよ。



「ネモフィラくんも何か言ってよ?」



「ああ…………何故俺たちは普通に観光している!?ここに来た目的は何だ!?」



「あっ……。」



ラフマがしまったという顔をした。


完全に忘れてたな。



「そして誘っておいて放置するな!見ろ!」



アギオスは完全に飽きていた。ボーっとした表情をしている。



「……宿に行くぞ。今から捜すのは非効率だ。明日からはしっかりとやる。いいな?」



「はーい。」



気が付くと町には、観光客に混じって冒険者が増えてきていた。


レグヌムからやって来た追手の人々だろう。この状況で逃亡者が動き回るとも思えないし、休んでおくことが賢明な判断か。


アギオスに訊き、国でも屈指のホテルに泊まることに。


まぁお金はたっぷりあるし、贅沢もいいよね。



「おぉー綺麗な眺めだねー!」



「ええ。とても綺麗だわ……皆で見たかったな。」



最上階の部屋に決まり、そこからの夜景は綺麗の一言に尽きる。満点の星空と大きな月。そして人々の営みによる町灯り。


それら全てが合わさり、目に焼き付けたくなる夜景が生まれていた。



「アベリアさん……。」



離れ離れになったのは、やっぱり寂しいのかな。



「――事情は大体、ネモフィラから聞かせてもらった。」



「アギオスさん。」



聖人と呼ばれる少女が隣に並んだ。



「さん付けは止してくれ。私はそんな大層な存在ではない。」



……謙遜、だよね?



「……良い景色だな。平和が感じられる。」



「そういえば、どうしてアギオスは聖人って呼ばれてるの?」



「……そうだな。共に同じ目的を持ったのだ。互いのことを知るのは大切だ。」



アギオスは窓の夜景から目を逸らし、そのまま歩くとベッドに腰をかけた。



「長くなるかもしれん。」



そう前置きをした。


やはり苦労の連続の末に、今の地位を手に入れたということか。


皆、同様にベッドに腰をかけ、彼女の話を待つ。



「……では話そう。そもそも私という人間は、常に自分の正義に従って生きている。」



――その正義とは、悪行を滅すること。


聖人はそう言った。



「無論、悪とは何か、正義とは何か、見解によってそれは大きく左右される。だが私は、自分の中でそれを判断し、悪と見做した場合には武力を施行してきた。」



他人から見たら、その正義もどこか間違っているように見えるかもしれない。


だから、他人の正義を気にしてはいけない。己の信念が、正義が揺らいでしまうためだ。



「どんな状況でも常に己の正義に従う。それを私は繰り返してきた。そうしたら、聖人と呼ばれるようになっていた。」



そこまで言ってアギオスは口を閉じた。



「……。」



沈黙が続く。



「…………あの?」



どうして何も喋らないのか?



「……ん?以上で終わりだが?」



「短い!」



想像していたよりも話が短い!あの前置きは何だったのか?



「うむ。長くなかったな。」



ああ……やっぱり……。


この人、少しヘンだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ