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マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
146/222

143:強盗

「あぁっ!?何だてめぇ!ガキが舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!?」



不味いな……。


リコリスは内心焦りを感じた。


この茶髪の少女は正義感から行動に出たのだろうが、体格差的に敵うとは思えない。


セプテムちゃんと同じくらいの体格かな……顔立ちも幼い。同い年……いや、年下か。



「舐めてなどいない。私はいつだって本気で……正直に生きているつもりだ。」



いや、そういう意味で言ってるんじゃないと思うけど。



「君、ここは僕たちが何とかするから……。」



「おっと!周りの奴ら!少しでも動いてみろ!このガキが死ぬぜ?」



「くっ……!」



この少女が人質のようになってしまった。


どうする……?


ラフマ……は厳しいか。アベリアさんなら反応される前に攻撃出来るか?それともネモフィラくんの炎魔法か?



「諸君、私のために動く必要はない。私のことは私が何とかしよう。」



「……どうする?」



こっそりと仲間に問いかける。この状況を打開出来る案が欲しい。



「隙を見て俺が魔法で……。」



「待って。」



アベリアがネモフィラの言葉を遮る。



「何だ?」



「あの子……冒険者なんじゃないかしら?」



たしかに他の人たちとは少し恰好が違う。


肌の露出が多く、水着のような服を着ている。ミニスカートと籠手コテが何だか異様だ。



「かもだけど……だからと言って……。」



強そうには見えない。


肩のラインまで伸びた真っ直ぐな茶髪と白い肌。良いとこのお嬢様といった雰囲気だ。



「うん。強そうな感じじゃないし……ん?」



ラフマが怪訝な顔で周囲を見渡した。



「どうしたんだい?」



「いや……なんか皆、落ち着いてるなーって。」



「えっ?」



たしかに、周囲の人々は強盗への脅威を多少は感じている様子だが、特に危機感を持っているようには見えない。


楽園と呼ばれる落ち着いた国柄でも、この場面でそれはおかしい。



「――先に聞いておこう。貴方はその魔法を誰かのために使う気はないのか?」



「ないに決まってるだろ!この国がとろいって聞いたから来ただけだ!」



「……ふむ。そうか。なら仕方あるまい。悪は成敗せねばならんからな。」



少女は一歩前に出た。


それを見て周囲の人々が騒めく。



「くるぞ……!」



「ああ……!久々に……!」



信頼……期待かな?


少女が勝つことを信じており、それでいて楽しんでいるかのようにさえ思える。


そんな反応だ。



「――では、どこからでもかかってこい。」



そう言って少女は無造作に歩き始めた。



「え……?」



エレジーナのとは違う。本当に無造作なだけだ。ワザと隙を見せているとか、そう思わせる演技とかではない。


武闘家のアベリアにしてみれば、異常とまで思える行動だ。



「このッ……ガキが調子乗ってんじゃねぇー!」



強盗の男は苛ついた声で怒鳴り、左手を少女にかざした。



「おい!」



ネモフィラが叫んだ直後、炎が放たれ少女を包んだ。



「うむ……まぁその……そこそこの火力だな。」



少女は無傷だった。


なぜなら、少女に当たった炎が跡形もなく消えていくからだ。



「おぉ!流石、聖人様だ!」



周囲からそんな声がした。



「な、何なんだお前は!?」



魔法が効かない。


そんな相手を目の当たりにし、強盗は怯えの混じった問いかけをした。



「人間だ。見て分かると思うが。」



だから、そういう意味の質問じゃないと思う。



「まぁ今は私のことはどうでもいいのだ。」



「こ……このー!」



魔法を止め、強盗はナイフで斬りかかった。



「ふんっ!」



それを少女は籠手で受け止め、左に払うとともに手首を掴み、グッと握りしめた。


強い衝撃により手は開かれ、ナイフが地面へと落ちる。


手首を掴んだ状態のまま少女はその腕を引き、同時に足払いを行い強盗を素早く地に叩きつけた。



「ぐがっ!」



おして背中を踏み、腕を引いて動きを押さえる。



「これで良し……さて誰か、兵士を呼んでくれ。この男を引き渡そう。」



「強いな……。」



やって来た兵士に強盗を引き渡す少女を見て、ネモフィラはそう呟いた。


今の体術……動きこそ派手さはないが、あまりにも滑らかな動きだった。それは一朝一夕に出せるものではない。



「あ、待って!」



この場を立ち去ろうとした少女をアベリアが呼び止める。



「む?貴方たちは……?」



少女は立ち止まり、こちらに向かって来ながら首を傾げた。



「……すまないが、顔を覚えていない。どこかで会っただろうか?」



「いえ、私たちとは初対面よ。」



「ああ、そうであったか。それは失礼した。それで、私に何か用か?」



……変わった子だな。


リコリスは改めてそう思った。


しっかりしているようで、どこかズレている。まぁ身の回りに変人が多いから、そんなに気にならないというか、おかしく感じないんだけどさ。



「私たち、ある人を捜しているの。金髪の男の子なんだけど……。」



「金髪か。観光客にはそういう髪の者もいると思うが……特定は難しいだろう。……自己紹介をしていなかった。」



思い出したようにお辞儀をした。


太陽の光を浴び、少女の茶髪がキラキラと輝く。



「私の名はアギオス。この国で聖人と呼ばれている者だ。」

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