139:賢者・3
「分かったって、フィカス……本当なの?」
「うん。とは言っても、確定は出来ないけどね。」
流石に完璧に言い当てることは出来ない。けれど、おおよその推測をすることは出来た。
戦いの最中、ヒントはあったんだ。
「ドゥーフの魔法……それは、生物以外を操る魔法だと思う。」
金属に地面、それとセプテムの引っ張られたという話……どれもバラバラなようで、生物ではないという共通点があったんだ。
「あれ?だとしたら、セプテムのお話はどういう……?」
「それなんだけど多分、身体じゃなくて服が引っ張られたんじゃないかな?」
生物を操ることが出来るなら、そもそもこんな戦い方をする必要はない。直接、僕たちを操れば良いだけの話だ。
でも、そうしないということは、生物は操れないということ。それに……。
「ヒントはもう一つあったんだ。僕たちのすぐ近くに。」
「近く……ですか?」
今、周囲にあるのは折れた木々。それと荒れた地面。
「……樹が操られた跡がない。」
「うん。だから、僕の予想は当たっていると思う。」
これなら、僕が創造した柱が動き出したことにも納得がいく。そして、その時のことからもう一つ――。
「それで、操る対象に意識を向けないといけないはず。」
セプテムとエヌマエルが近接した後、僕に襲いかかっていた柱と手は動きを止めた。
その時は不思議に思うだけでそれ以上考えなかったが、こう考えるとしっくりくる。
「それに今は攻撃してこない……だから合っていると思うんだけど……どうかな?」
何だかんだ言っても、所詮は推測の域を出ない。
自分一人で結論付けるのには不安が残る。
「うん。当たってると思うわ。」
「はい!流石はフィカスさんです!」
「あはは……ありがと。」
面と向かって褒められると、何だか照れくさいな。
「それで……作戦があるんだけど――。」
「……仕掛けてこねぇな。」
地面からせり出した柱を元の高さに戻し、ドゥーフは三人が隠れた地点を見つめる。
最初はその場しのぎで隠れたと思ったが、それにしてはアクションがなさ過ぎる。
……そもそも、このタイミングで諦めるなんてことはねぇだろうが……。
「……仕掛けるか?」
自分自身に問いかける。
樹木が比較的多い地点に隠れている。攻撃するには立地が少しばかり悪い。
「大体、何であんな……まさか……。」
俺の魔法に気付いたのか?
国にいる奴ら……国王ですら、俺の魔法がどういう類のものであるか、詳しくは知らないというのに。
もしそうだとしたら、相当の観察眼と推理力だ。
……面白ぇ。やってやるか。
「おい!てめぇらが来ないなら、こっちから行くぞ!」
「言われなくても……やってやるわよ!」
木陰から褐色の小柄な少女が飛び出してきた。
残り二人は……姿が見えない。
こいつは囮で気を取られた隙に仕掛けるつもりか?
「――だとしたら、単純過ぎるんだよ!」
こいつだけに気を取られないよう注意しつつ、地面を操り巨大な棘を少女に向けて突き出す。
「単純で結構よ!」
少女は避けず、炎魔法で正面から押してきた。
「力比べよ!」
劫火の火力が増していく。土は焦げ崩れ始めた。
チッ……だがよ。意識を向ければ、いくらでも操れるんだよこっちは!
地面を次々と追加していき、棘をより強固なものにしていく。
「上等!」
劫火もますます強くなる。
……で、こいつに集中させている間に……。
脇から緑色の髪をした女性が飛び出してきた。
「だから言ったろ!単純なんだよ!」
金髪の姿はまだ見えない。となると、こいつも囮か?
まぁこの女に関しては、そこまで警戒する必要はない。実力は下の上、そんなところだ。
女の前の地面をせり出させ、壁を生成する。
これで充分……。
「おりゃあー!!」
だが、女はその壁を飛び越えてきた。
「は?」
人間に出せる跳躍力ではない。何をした?
だが魔法使いから視線を動かすのは危険だ。最優先が魔法使いの少女であることに変わりはない。
ドゥーフは三歩下がり、視界に映る範囲を広くする。
「ハッ……無駄な努力ってことを教えてやるよ。」
劫火の前に巨大な壁を建て、迫りくる女へと意識を向ける。
「へ……わわ……!」
コントロールする対象は、その女の着ている服。
このまま後ろへと押し出し、地面に叩きつける。それでこいつは終わりだ。
「わわわ!ちょ、強いですって!」
「なに……!?」
女の身体は後方に行くどころか、こちらに向かって動き出した。
俺の魔法が効いていない?いや……それはない。だとすれば……。
「くそがッ!」
風魔法か!奴の魔法で反発するように女の身体を押している。
「だがよ……。」
それが何だって言うのか。それで俺の魔法を攻略したつもりか?
「誰が近接戦が苦手っつったんだよ!?」
槍で女の持つ剣を弾き飛ばし、柄で腹を突く。
「ぐっ……ふっ……!」
エヌマエルは腹を押さえ、その場にうずくまった。
直後、脇から爆発音がした。
「よーやく意識を逸らしたわね!」
土の塊を全て破壊し、セプテムがドゥーフに肉迫する。
その手に持つ短刀が朝陽を浴びて輝き、喉元めがけて突き出され……。
「ぐっ!?」
突如、短刀が思わぬ方向を向いた。
それにより腕も引かれ、セプテムは大きくバランスを崩した。
「終わりだ。」
「まだよ!」
短刀を投げ捨て、右手に氷魔法を発動させる。
――それで攻撃するつもりか?間に合わねぇよ。
槍をセプテムへと向け、腕を前へと突き出す――。
その刹那、ドゥーフは地面に映る影が大きいことに気が付いた。
「しまっ……クソがよ!!」
上からの強烈な衝撃によって、手にしていた槍が叩き落とされた。
「ナイスタイミング!フィカス!」
風魔法でフィカスを宙へと投げ、セプテムは氷で作ったナイフをドゥーフの胸元へと突きつけた。
「これで……私たちの勝ちね。」