138:賢者・2
「三人で一気に叩くわよ!」
奴がどんな魔法を使っているのか分からない。ならば、何かされる前にケリを着けるべきだ。
「――無駄なんだよ。後手に回った時点で、てめぇらの負けだ!」
地響きが鳴った。
嫌な気配を感じて振り返ると、巨大な手を押さえていた柱がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「はっ!?どうなってんのよあいつの魔法は!」
「先行ってて!」
フィカスが立ち止まり、柱を正面に見据える。
――壊すのは無理だ。相打ちも難しい。だったら……。
受け止める!
石壁を創造し、それで柱をせき止めた。
が……。
「……え?」
今度はその石壁が動き出した。
「え、な、何で……!?」
どんな魔法だ?
石を動かせる……じゃない。槍も自由に動いていた。
もっと広い範囲か?
「おい!こっち見ろ!」
「あ?」
セプテムが短刀を持って斬りかかるが、割り込んできた槍がそれを阻んだ。
「おいおい、いいのかよ?あいつ……潰れるぜ?」
槍の向こう側にいるドゥーフがニヤニヤと笑う。
「ハ!フィカスはね……そんなやわじゃないっての!」
短刀を握る右手に力を込めながら、空いている左手に意識を集中させる。
――この近距離なら、避けられないでしょ!
「だから言ったろ?後手に回った時点で、勝ち目なんざねぇよ!」
「な……に……!?」
セプテムは身体が後ろに引っ張られる感覚に陥った。
そのまま、訳が分からないまま身体は後方へと飛んで行き、背後から隙を窺っていたエヌマエルと激突する。
「痛っ……くはない……。」
「なら良かったです!大丈夫ですか!?」
「まぁ……ちっ……!」
下敷きになったエヌマエルを見て、セプテムは舌打ちした。
……この胸に助けられたのか。腹立たしい。
「何で今舌打ちしたんですかっ!?」
「何でもない!いくわよ!」
短刀を握り直し、立ち上がると火球を放った。
「無駄っつってんだろ。」
ドゥーフの前から地面がせり出し火球を防いだ。
土壁は崩れ、爆発と土煙で視界が奪われる。
「……あれ?」
宙に岩石を創造し、迫る石壁を破壊しようとしていたフィカスだが、突然動かなくなった石壁に首を傾げた。
ドゥーフの方を見やると、砂煙が巻き上がっており、様子がよく分からなくなっていた。
「これって……。」
時間制限か?それとも……。
「……何にせよ。」
チャンスだ。
相手の攻撃が止んだ。
ここで一気に仕掛けるしかない。
「喰らえッ!」
砂煙に向けて巨大な劫火が放たれた。
……喰らったら即死級だけど……。
「甘ぇんだよ!」
巨大な土柱が地面から生えてきた。
その頂上にドゥーフは立ち、槍が急降下して襲いかかってくる。
「甘いのはそっちだ!」
セプテムは劫火を弱めることなく、そのまま土柱にぶつける。
このまま崩すつもりだ。
なら僕がやるべきことは――。
「頭下げて!」
ブーメランを創造し、それを投げつける。
セプテムの頭上すれすれをブーメランは飛んでいき、槍にぶつかり墜落する。
しかし、槍はひるんだ後に再び動き出した。
「くっ……これじゃ駄目か……!」
動きを止める程度の威力じゃ意味がない。もっと強い力が必要だ。
「フィカスさん!後ろから!」
また巨大な手が地面から生えてきていた。この場に留まっては……。
「セプテム!一旦退こう!」
「チィ……分かったわよ!」
結局、ドゥーフの立つ柱を破壊することは出来なかった。
どうする?風で上に行くか?
けれど空中では満足に動くことは出来ない。
「オラオラ!どうした!?そんなもんかよ!?」
次々と地面から手が生え、押し潰そうと倒れ込んでくる。
その合間を縫うように駆け抜け、木々が深いところに隠れる。
「……ふぅ……少し落ち着けるかな……?」
「……だといいけど。」
木の陰から様子を窺うと、巨大な手は動きを止めていた。無理やり追いかけてくる気はないらしい。
「どうするんですかあれ!?勝てないですよ!」
「うん……あのパワーに正面から挑むのは、やっぱり無謀だし……。」
森の中を見渡すと、攻撃によって折れた樹木が幾つか散乱していた。
樹をへし折れるくらいのパワーがある。それに、対抗しようと何かを創造しても、それすら相手に使われてしまう。
「あと、さっき私が攻撃しようとした時、引っ張られるような感じがしたのよ。」
「引っ張られる?」
見えない手がどこかにあるってこと?
「そう。服が後ろに引っ張られる……感じだったわ。」
「そういう魔法……ってことですよね?どんな魔法何でしょうか?」
「それが分かっていれば、最初から苦戦なんてしないわよ。」
――考えよう。
今は攻撃してこない。休憩しているってことか?
――思い出せ。
地面や槍が自由自在に動いていた。それに加え、今のセプテムの話……。
――あれ?
フィカスは顔を上げ、再び周囲を見渡す。
「どうしたんですか?」
――そうか。
「どういう魔法なのか、分かったよ。」