13:気質
大きなモーションだと読まれてしまう。フィカスはできるだけコンパクトな動きになるよう気を付けて木刀を振った。
右上から斜めに振り下ろし、すぐさま突きを繰り出す。フェイクというわけではなかったが、躱されると思っての二段攻撃だ。
サンナは表情を変えず、一撃目を半歩下がって避け、二撃目ナイフで下から払うようにして受けた。
下からの衝撃を受けたフィカスの腕は勢いのままに上へと上がり、胴に隙ができた。
攻撃される……!
今から木刀を振るっても間に合わない。そう判断しサンナを真似てバックステップで回避を試みる。
「うぐっ!」
が、間に合わなかった。いや、フィカスの動きはできていた。それ以上にサンナが素早かったのだ。
「さぁもう一度。どんどん来てください。」
いつも通りの口調。しかし、そこに漠然とした恐怖を感じた。
初めて会った時に感じたような、冷たさと怖さを感じ取った。
「よし……もう一回……!」
三度、フィカスはサンナに斬りかかった。
「どう思うよ?」
あっさりと攻撃をあしらわられ、一撃でやられ続けるフィカスを見て、ジギタリスはアベリアに問いかけた。訓練であるとはいえ、一方的であまり訓練になっていないと思ったためだ。
「そうね~……サーちゃんはまだまだ余裕があるみたいだし、フィーくんも動きが一辺倒だわ~。これじゃあ、同じことの繰り返しになると思うわ~。」
想像していたよりもしっかりとした回答に驚かされた。
いつも笑顔でどこかずれていると思っていただけに、一挙手一投足をよく見ているアベリアに驚嘆した。
「けどね、フィーくんも段々と分かってくると思うの。」
「そりゃあまた、どうして?」
「だってフィーくんは、見ることが得意なんでしょう?きっと、サーちゃんの動きを見て、勉強できると思うの。だからね、ジギくんが心配しなくても、きっと大丈夫よ~。」
「……おう!」
見ることが得意。そのフレーズに納得した。
フィカスの創造魔法は、イメージした物を現実に創りだす。イメージする必要がある。つまり、物をよく観察して細部まで覚える必要がある。
その必要がある魔法を持ち、ずっと使ってきたのだ。見ることに関しては、常人よりも遥かにセンスがある。
事実、フィカスは何度も倒されながらも、サンナの動きをよく観察していた。
同い年だけど、戦闘では先輩。参考にならないはずがない。
「……うわっ!」
手の甲を叩かれ木刀を落としてしまった。
「そろそろ休憩しますか?」
「ううん。まだ大丈夫。もう一回頼むよ、サンナ。」
もう少しやっていれば、何かが掴める気がする。だから、ここで時間を置くといけない気がした。
確実に疲労している。それでも熱心に挑んでくるフィカスにサンナは感心していた。
これだけやられたら諦めても不思議ではないし、休みたいと思ったとしてもそれは自然なことだ。
けれども、フィカスはまだ挑んでくる。
大人しい気質だと思っていたが、芯が強い。観察眼以外にも、そのような強みがある。
「分かりました。やりましょう。」
思わず笑った。
彼は絶対に強くなれる。その資質がある。根性がある。
「さぁ、来なさい。」
自然体を解き、サンナはナイフを構えた。