表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
139/222

136:邂逅

沢山の人の笑い声、食べ物と酒の匂い――。


ギルドは賑わい、とても明るい雰囲気のものだった。



「……なんか、ちょっと意外ね。」



「……うん。」



ここまで賑わっているギルドは初めて見た。まるで宴をやっているかのような雰囲気だ。


入り口から見渡してみると、一番奥に受付らしき場所を発見した。



「いや~楽しい雰囲気ですね~!」



「そう?」



エヌマエルとは対照的にテンションの低いセプテム。


騒がしいのはあまり好まないのだ。



「賢者様~ぜひこれを飲んでくださ~い。」



「待ってよ!私が先よ~!」



奥へと進む最中、あるテーブルからそのような声が聞こえてきた。


そちらに視線をやると、数人の女性が一人の男の前に座り、我先にとばかりにグラスを差し出していた。



「……ああいうのもいるわけね。」



セプテムは半眼になってそのテーブルを見た。


モテる男はツライ、というやつだろう。



「……ハッ!つまんねぇことしてくれるじゃねぇか!」



だが、その男はそう言ってグラスを全て床に叩き落とした。



「えっ!?」



男は立ち上がる。



「何だその顔は?この俺が気が付かないとでも思ったか、クソども?もっとましな手を考えるんだなクズどもが!」



――こいつ……。


あの飲み物の中に、何か毒でも入っていたか。


もしそうだとしたら、あの男は最初からそれを見破っていたことになる。



「……とんでもない奴ね……。」



「ったく……暇つぶしになるかと思ったのによ……あ?何見てんだ?」



男がこちらを向いた。



「……別に。何でもないわよ。」



あまり関わらない方が良い。


そう判断し、すぐさま立ち去ろうとしたのだが――。



「待てよ。お前ら、見かけない顔だな。」



「……。」



「俺は記憶力が良いんだ。このクズどもみてぇな奴が出てくるからな。で、その俺の記憶にないってなると、余所者ってことになる。当たってんだろ?」



……傲慢だ。この人。


フィカスはそう思った。


ギルドにいるということは冒険者。その冒険者がこれほどまでの態度を取れているのだから、相当の実力を擁していることになる。



「……ええ。私たちは海外から来たわ。稼ぎにね。」



「そういうことか。まぁ座れよ。話を聞いてやるからよ。オラどけクズども!」



女性たちを乱暴にどかし、男は席に着いた。



「……どうするんですか?」



エヌマエルがフィカスにそう耳打ちした。



「……座ろうか。」



ここでどうこうしても仕方がない。ここは素直に言うことを聞いた方が良い。


そう考え、フィカスは男の正面の席に座った。



「……。」



それを見て、セプテムとエヌマエルはそれぞれフィカスを挟むように座った。



「で、どこから来たんだ?」



「僕たちは……レグヌムから来た。」



少し迷い、正直に言うことにした。


青に一筋の白が入った髪の男は、自身の顎に手を当てた。



「レグヌム……?……西大陸の……勇者と呼ばれる男がいる国か。」



この国にも知られているのか、スクォーラさんは。


やっぱり凄い存在だったんだ。



「そこからわざわざ来るってのは、どういう了見だ?」



「勇者の問題があったのよ。」



「……続けろ。」



男の目つきが変わった。



「彼――フィカスが次の勇者の候補なんだけど、それを国王が良くないと思っているの。」



「へぇ……。」



男はジロジロとフィカスを見る。



「それで、何かされる前に逃げてきたってことか?」



「そういうことよ。」



「そういうことだったんですね~……。」



そういえば、エヌマエルも詳しい事情は知らないんだった。


男は黙り込み、何か考えている。


沈黙がしばらく続き、やがて男はゆっくりと口を開いた。



「――よし。今日は俺が面倒を見てやるよ。どうぜアテはないんだろ?」



「そうだけど……どういう意味よ?」



――一々ムカつくわね、こいつ。



「日も暮れている。宿代くらい出してやるよ。」



「おおー!それはありがたいです!」



「だが――。」



男は人差し指を立てた。



「条件がある。明日、この俺と勝負しろ。」



「――どうして?」



「この国で――この大陸で一番強いのは俺だ。だが、俺はそこに収まるほど小せぇ器じゃねぇ。この世界で最強――それが俺だ。それを証明する。お前らはその生贄だ。」



言い方はアレだが、冗談で言っているのではない。


要は試したいのだろう。勇者候補のその実力を。



「――分かった。その勝負、受けるよ。」



「――決まりだな。明日の朝、ここに来い。これが金だ、ほらよ。」



乱暴に通貨をテーブルに投げ、男は立ち上がった。



「待って!あんた、名前は?」



「ドゥーフ。賢者ドゥーフだ。」



そう言って男は去っていった。



「……ふぅ。怖い人でしたね。」



「……そうね。」



賢者という職業は存在しないはず。


あの肩書――国から授けられたものだろう。勇者と同じく。


つまり、あの男はスクォーラと同格。


万全のパーティならまだしも、この三人では厳しい相手だ。



「これは……早々に厄介なことに巻き込まれたものね。」



セプテムの呟きは、ギルドの賑わいに掻き消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ